バチカンから見た世界(55) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

一方、その変貌の重要性と同等の意味を持ち、政治的影響はより高い、「教皇ベルゴリオ(ローマ教皇フランシスコの俗称)のカトリック教会に対する敵対」という「同盟」の路線に注目する。「同盟」が、「第三世界(ここでは主に開発途上国)の悲惨を語り、欧州へ大量に移民を呼び寄せるカトリック教会と南米出身の教皇」として対峙(たいじ)する構えを示し、極右派、カトリック原理主義勢力、神学界保守派、キリスト教原理主義者を基盤とする米国のポピュリズム提唱者たちと連携していくとしているからだ。

バチカン内においては、教皇フランシスコの改革路線に反対する聖職者保守勢力との協調も考えられる。北部同盟は、どちらかといえば、宗教に無関心だったが、サルヴィーニ党首は2月24日、ミラノの大司教座聖堂広場で行われた今回の選挙戦で最も重要な集会の席上、イタリア憲法と聖書を高く掲げ、片方の手にはロザリオを握り締めながら演説した。昨年の10月にポーランドの約100万人のカトリック信者たちが、同国の国境付近でムスリム(イスラーム教徒)の移民排斥を祈る大集会を開催した時、彼らが祈りの“武器”として使ったロザリオだ。

フランスで1973年、『聖人のキャンプ』というタイトルのついた架空の政治小説が刊行された。作者はジャン・ラスパイユ氏。内容は、インド・コルカタ(カルカッタ)から大量の移民が筏(いかだ)や帆船で南仏に漂着し、フランスの主流派となることによって、白人キリスト教至上主義を崩壊させてしまうというもので、終末論的な人種差別をテーマとしたものだ。同書のタイトルは、聖書の黙示録の中に出てくる終末の描写に由来する。刊行当時には話題に上らなかった小説が、大量移民が発生した現在の状況を受けて急に関心を呼び始めた。これは、トランプ大統領の首席戦略官で、後に更迭されたスティーブ・バノン氏の、特にイスラーム圏からの移民排斥のイデオロギーの基盤になったともいわれる。トランプ大統領の署名したイスラーム圏7カ国からの米国への入国を制限する大統領令の背後には、バノン氏の影が見える。

フランスの「国民戦線」党首のマリーヌ・ルペン氏は、『聖人のキャンプ』のテレビでのドラマ化を主張する。ラ・スタンパ紙は、「同盟」党首のサルヴィーニ氏や彼の支持者たちの本棚にもイタリア語訳のラスパイユの著書があるはずだと推測している。