バチカンから見た世界(49) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
コプト正教会のタワドロス二世は、「エルサレムがユダヤの国民にとっての歴史であるならば、キリスト教徒とイスラーム教徒にとっても同じである」と主張し、「米国大使館のエルサレムへの移転は認められるものではない」と述べた。WCCのトゥヴェイト総幹事は、「エルサレムの未来は、分かち合われたものでなければならない。他の信仰や民族を対立させる、一つの信仰の独占であってはならない。エルサレムは、現在も未来も、3宗教、2民族の都市であるべきだ」と強調した。
さて、ここで考えておくべきは、イスラームの政治、宗教指導者たちが、教皇やバチカン、聖地のキリスト教諸教会指導者、プロテスタント諸教会や正教、英国国教会の合議体であるWCCといったキリスト教諸機関の指導者の聖都エルサレム問題に関する見解に、なぜ耳を傾けようとするのかだ。トランプ大統領から米国大使館のエルサレム移転の報を受けたパレスチナ自治政府のアッバス議長は即刻(12月5日)、教皇に電話を入れ、この問題に対処するための連帯を求めた。
トルコのエルドアン大統領はイスラーム協力機構に働きかけ、12月13日に臨時首脳会議を招集し、「未来のパレスチナ国家の首都は東エルサレム」とする共同声明文を公表させたのみならず、自らも「パレスチナの首都である東エルサレムにトルコ大使館を開設する」(同17日)と発言した。加えて、これまで2度にわたり教皇と電話会談を行い、2月5日にはバチカンを訪問する予定だ。
ヨルダン国王のアブドッラー二世は12月19日、バチカンを訪問し、教皇と「エルサレム問題と、ヨルダン・ハシェミット王国の国王としての聖地管理人の役割」について懇談した。こうした、イスラームの政治指導者と教皇、そして、他のキリスト教指導者たちとの間で連携が強まる状況について、12月19日付のイタリア紙「ラ・スタンパ」は、トランプ大統領によるエルサレムの首都認定が、異を唱える聖地と世界のキリスト教を結束させ、「イスラームの政治指導者たちは、トランプ政権の聖都に対する政策に対抗するために、客観的で偏らない同盟者として教皇やバチカンを見ている」と報じた。