バチカンから見た世界(37) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
核の抑止力――それは同時に、核兵器による相互壊滅を意味する。その脅威がある以上、核抑止力が諸国家間の友愛や平和的に共存する倫理とはなりえず、「現在の若者、さらに未来世代の若者たちは、それ以上のものを求める権利を有する」と教皇は呼び掛けてもいる。「人類家族」という一致を基盤とし、尊重、協力、連帯、慈しみの上に構築される平和な世界の秩序を手にする権利を彼ら若者たちは有しているからだ。そして、「その責任に基づく倫理によって恐怖の論理を覆し、信頼に基づく誠実な対話を促進する時が今、到来している」というのが教皇の見解だ。
そこには、「誠実でオープンな対話」が求められる。ただし、核保有国の国内、核保有国同士、核保有諸国と非保有国間で行われることが重要だが、「国際機関、諸宗教共同体、市民社会を巻き込む、包括的なものでなければならない」とする。
15年に国連総会でスピーチに立った教皇は、国連憲章の前文と第1条が、国際の平和と安全の維持、諸国間の友好関係の発展、世界平和の強化といった国際法の基盤になっていると説明した。その上で、国際法の理念に反し、常に増強されている兵器、特に、核兵器をはじめとする大量破壊兵器の拡散に危惧の念を表明。「相互壊滅のみならず、全人類の壊滅につながる危険性を有する理論と国際法は矛盾するものであり、国連の枠組みに対する挑戦でもある。そして、国連を“恐怖と不信によって結び付ける諸国家の連合”にしてしまうのだ」と述べた。だからこそ、核兵器の全面禁止に向け、「核不拡散条約(NPT)を完全に履行し、核兵器から解放された世界の構築に行動することが急務である」と言うのだ。