利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(31) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

立憲民主党における理念の限界

れいわ新選組は、参院選で人々の献金を3億円以上も集めて、私の予想通りの特色とインパクトを持つようになった。この半面として、立憲民主党への人々の熱い思いはかなり冷め、伸び悩んだ。

そもそもかつての民主党が凋落(ちょうらく)して崩壊したのは、野田政権の時に自民党と消費税増税について合意(三党合意)をして独自の理念を失ってしまったからだ。逆に、結党時に「立憲民主党はあなたです。」という標語のような期待が高まったのは、「安全保障関連法」(安保法)などに反対する立憲主義的理念を背水の陣で訴えたからだ。

これによって政治的理念は確立したが、経済的理念は不十分だった。ボトムアップの経済は主張したものの、多くの候補者たちはそれをあまり的確に訴えられなかったように見える。今回の参院選では年金や消費税が争点となったのに、消費税については凍結を主張するだけで、減税は主張しなかった。三党合意の反省をしていないと言わざるを得ない。理念に基づく対立軸を明確に形成できなかったので、有権者の期待がれいわ新選組にかなり移ったのだろう。

熱気が失われた理由と倫理的理念の必要性

熱気が失われた原因は、立憲民主党が選択的夫婦別姓やパリテ(男女共同参画)のような、多様性・男女平等や選択の自由を重視する政策を重視する一方で、国民の多数派が関心を寄せる課題から離れてしまったというところにもある。政治思想の用語を用いれば、リベラリズムに偏してしまったということだ。

しかも候補者擁立方針などにも、倫理的な良識を重視する姿勢が見られない。かつての民主党が力説していた新しい公共の理念も、この政党はほとんど訴えなかった。

よって、倫理性や公共的理想が感じられず、しかも経済的な理念と政策が曖昧で、ポジティブなビジョンを十分に提起できなかった。このため、結党時の熱気が雲散霧消したように見える。日韓の外交問題でも、政府と対峙(たいじ)して友好関係を回復するための発言や行動を積極的に行っているとは言えないだろう。

他方で、れいわ新選組は庶民や弱者のための政治を訴えて、党首が落選する可能性も覚悟する選挙戦術を取った。この心意気に一定の人々が共感したのだ。

この対照性から学ぶべきことは何か――これからの日本には政治経済にわたる大きな理念が必要であり、それを支えるのは倫理的な公共性だということに他ならない。令和時代における初の国政選挙は、このような課題を私たちに投げ掛けているのではないだろうか。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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