利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(29) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

選挙における宗教的・哲学的視座(4) 政党間の和と投票の知恵

比例区においては、もっとも自分が共感する政党に投票するのが普通だが、選挙区においては全ての政党が候補者を出しているわけではないから、支持政党だけではなく立候補者を見て選ばなければならない。幾つかの政党が協力してある候補を支援している場合、その中には自分が共感できない政党も交じっていることもありうる。

このようなことが起こるのは、個々の政党がバラバラに候補を出すと敗北必至になることがしばしばあるからだ。実は、政党がお互いの理念や政策の差を乗り越えて協力するのは、さほど容易ではない。「小異を捨てて大同につく」という諺(ことわざ)のように各政党が自己主張を抑制して敢(あ)えてそうするのは、大きな目的のために必要だからだ。その大義に共感するならば、個々の政党に対する好悪を超えて、より高い宗教的・哲学的視座から見て投票することが大事だ。

儒教では「君子は和して同ぜず」という名文句がある。人格的に高い人は、友好的であっても意見が同じとは限らないという意味だ。各政党が小さな政策の相違を超えて大義のために協力するのは、この「和」の精神に近い。

選挙区で3人以上の候補者がいる場合には、事前の選挙予想を見て、当選可能性を考えて投票するという方法もある。自分がもっとも共鳴する候補者に当選可能性がほとんどない場合には、その投票には意味があまりなくなってしまうからだ。このような時には、当選の可能性がある候補者の中で、自分が比較的良いと思う人に投票するという方法がある。これは戦略的投票といわれる。

これは、宗教的・哲学的に言えば知恵を働かせるということだ。理想主義を可能な限り実現するために、その観点からの現実的選択を行うのである。

多くの有権者が世俗的権力の操作に惑わされず、高い超越的視座を持って投票し、「麗しい和」の時代にふさわしい国政への道を開いてほしいものである。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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