『望めど、欲せず――ビジネスパーソンの心得帖』(11) 文・小倉広(経営コンサルタント)
Respect――もう一度見直そう
世の中にはいろいろな人がいます。十人十色。百人百様。皆さんの職場にも、理解しづらい「変わった」人がいるに違いありません。
私たちは、自分の価値観に照らして、相手を見ます。つまり、自分の価値観(Private Sense)を「正義」とし、それと異なる価値観を「悪」もしくは「間違い」と断じてしまうのです。
しかし、一見すると「変わった」人、「間違った」人である“あの人”もまた、あなたと同じように周囲の人を「変わった」人、「間違った」人である、と思っています。「自分こそが『正義』である」と。
対人関係の課題のほとんどは価値観の違いから生まれます。「私は正義であり、あなたは間違っている」と。お互いが相手をそのように裁き、相手を変えようとするから、あらゆる問題が起きるのです。
では、どのようにすればいいのでしょうか。
もう一度、見る。そうすればいいのです。
尊敬を英語で言うと「Respect」です。この言葉は二つに分解されます。Reは「もう一度」の意、Spectは「見る」という意味です。つまり、Respectとは、「もう一度見る」という意味なのです。
一回目の「見る」は「私が正しく、相手が間違っている」と他者を裁く見方です。そこで、一呼吸置いて、もう一度見直します。
相手だって、私と同じように「自分が正しい」と思っているに違いない。そこで、どちらが正しいか競い合うから、問題が起きる。そうではなく、「理解できない相手の行動でさえも、相手の動機は善である」と思って、もう一度見直す。それがRespect(尊敬する)という意味なのです。
あなたからすれば理解しがたい、他者に迷惑をかけるような行動も相手にとっては「善」なのです。では、その善とは何でしょうか。
それは「社会への所属」です。人が取るあらゆる行動の目的はすべて「所属」に向けられているのです。
他人の悪口を言うのは、相手を落とし、自分を高めた上で社会へ所属したいから。自分だけ目立とうとするのもそうして所属したいから。他人と違う突飛(とっぴ)な行動を取るのも、人を怒鳴りちらすのも、他者から注目され、同情され、心配されることで、社会へ所属したいから。すべての行動の目的は社会への所属のために行われている。その目的は「善」なのです。
そんなふうに、相手の不適切な行動をもう一度「善」として「所属のための命がけの努力」として見た時に、私たちの心に慈悲と許しが芽生えるでしょう。そんな相手を勇気づけ、力になりたいと思うでしょう。すると、関係改善のきっかけができるのです。
あなたの職場の、不適切な行動を取る上司、同僚、後輩、取引先。彼らの動機も「善」であり「所属」の意思の表れです。そんな視点で「もう一度見る」。何かが変わるかもしれません。
プロフィル
おぐら・ひろし 小倉広事務所代表取締役。経営コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラーであり、現在、一般社団法人「人間塾」塾長も務める。青山学院大学卒業後、リクルートに入社し、その後、ソースネクスト常務などを経て現職。コンサルタントとしての長年の経験を基に、「コンセンサスビルディング」の技術を確立した。また、悩み深きビジネスパーソンを支えるメッセージをさまざまなメディアを通じて発信し続けている。『33歳からのルール』(明日香出版社)、『比べない生き方』(KKベストセラーズ)など多くの著書があり、近著に『アルフレッド・アドラー 一瞬で自分が変わる 100の言葉』(ダイヤモンド社)。