【認定NPO法人妊娠SOS新宿理事長・佐藤初美さん】「誰にも言えない」性暴力被害 徹底的に寄り添う支援の在り方

近年、女性が家族や恋人などから受ける性暴力被害の件数が増加している。2020年の内閣府調査では、女性の約14人に1人が、無理やりに性交などを強要された経験があると判明した。一方、被害を受けた女性の約6割は「誰にも相談していない」と回答。性暴力で傷ついた女性の孤立が浮き彫りになった。認定NPO法人「10代・20代の妊娠SOS新宿―キッズ&ファミリー」の佐藤初美理事長は、そうした声なき声に向き合い、望まない妊娠や性暴力に悩む若年女性の支援に携わる一人だ。性暴力被害の現状や、具体的な支援内容について話を聞いた。

10代の女の子が身近な人から性暴力を受けるケースが急増

――性暴力とは、具体的にどのようなことを指しますか

性暴力とは、同意を得ない性的な行為全般のことを言います。例えば、性行為の際、女性が「避妊をして」と相手の男性に言ったのに聞いてもらえず、恐れていた妊娠につながることや、相手の人格や誇りを傷つける言葉を発して自分に従わせることなどが当てはまります。そのため、付き合っている男女の間においても十分起こり得ることです。

妊娠SOS新宿の開設から7年間で、1518件の新規相談が全国から寄せられました。内容は、「生理が遅れている、妊娠したかもしれない」「中絶したいが、お金も住まいもない」「家庭内で性被害に遭っている」など多岐にわたります。必要な制度や支援の情報が届きにくい10代から20代前半の女性が中心です。

新型コロナウイルス感染症が流行した2020年度は、特に深刻な状況でした。大人も子供も外出自粛となり、生活上のストレスも重なる中、10代の女の子が家庭内で自分の父親や、母親の交際相手、兄など身近な人から性暴力を受けるケースが増加したのです。学校や友達の家へ逃げることもできず、被害に遭った女の子たちの精神的苦痛は相当のものだったと思います。

――性暴力被害が起こる背景には何がありますか

相談者の中には、家庭内暴力やDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けた経験のある人が多くいます。彼女たちはこれまで、暴力による肉体的、精神的ダメージから心身に異常を来しても、行政などの支援を頼らず、誰にも助けを求めずにきました。その背景には、成育過程で他人のことも、自分のことも信頼できない状態になってしまったことがあります。

小さい子供には愛着形成といって、両親、または保育園や学校の先生など、一緒にいて安全で「大好き」と言える大人の存在が重要です。たくさん抱きしめてもらい、「あなたがいるから幸せなの」と言ってもらうことで、信頼関係を学んでいく。そうした存在がいないと、自己否定が進み、愛情に飢えた精神状態で思春期を迎えることになります。そこで異性と出会い、違う形で肌のぬくもりを知り、性依存に陥ってしまうのです。性依存の関係では多くの場合、暴力の問題がつきまといます。

――被害者が「誰にも相談できない」と考えてしまう要因は?

一番の問題は、学校や家庭で十分な性教育が行われず、性の話題がタブー視されていることです。義務教育には保健の授業がありますが、受精の場面に直接触れてはいけないなど、規制が厳しい。正しい知識を持てないため、性行為をした時や妊娠をした時、「いけないことをした」という発想になり、誰にも相談できないのです。

中高生の場合、親や学校に言えないのはもちろん、信用する友達に「誰にも言わないでね」と打ち明けても、その友達も抱えきれずに他の友達に話してしまう。最近では、SNSの発達ですぐに情報が拡散するため、内緒のはずが一晩でみんなに伝わってしまうのです。こうした問題も、知識の不足に尽きます。

ヨーロッパでは、女の子は年頃になると家や学校で、「生理が来なかったら産婦人科へ行くのよ」と教わるなど、産婦人科が身近な存在です。しかし日本では、産婦人科=妊娠というイメージが強く、生理不順などの不安があっても相談に行きづらい状況です。小さい頃から男女の身体の違いや、「相手を大事に思う」という意識を性教育の中でしっかり育みながら、医療機関や行政の役割を伝えていくことが大事だと思います。

――妊娠SOS新宿では、どのような支援を行っていますか

相談窓口は年中無休で、電話とメール、最近は携帯のショートメッセージやLINE(ライン)も活用して受け付けています。連絡してくれた女性にはまず、「あなたが悪いんじゃない」「よく相談してきてくれたね」と声をかけます。思いがけず妊娠が発覚して、けれども相手の男性が逃げてしまうなど、想定外の出来事が重なり、自分のことを責めている女性が多いですが、他の誰かに受けとめてもらうことで、気持ちを切り替えるきっかけになればと思っています。

その後、本格的な相談では、本人の話を踏まえて、妊娠の可能性があれば必要な検査や手続きができるよう、病院や役所などに同行します。出産するにしても、やむを得ず中絶するにしても、最終的な結論を相談者本人が出せるようにサポートします。また、性被害を受けたという場合には、不安や怒りの気持ちに寄り添いながら、警察への相談や救急医療の受診を促します。3年前には、安全な居場所のない女性が一時的に避難できるシェルターも開設しました。

相談を受ける時は、「何でもあり」の姿勢を大切にします。ある相談者の女の子は、出会ってから5年経ちますが、今も生活で課題にぶつかると「やっぱり私はダメだ」と落ち込んで相談してきます。でも、「初めてここに来た時の自分を思い出してごらん」と話していくうち、「その頃よりは成長している」と気づいてくれます。自分で自分を認められるようになると、私の中の強みは何か、ということも言語化できて、前に進めるのです。

否定から始めず、その時点の相手の状況を何でも受け入れると、本人自身が自分の中にある、自立して生きるための力を見つけ出せます。時には生活訓練として、食事の作り方や育児のノウハウなども教えながら、日常生活でできることを増やしていく。この積み重ねです。右肩上がりの成長ではなく、途中でガクッと落ち込んでしまうこともありますが、それも受け入れて伴走し続けます。

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