“平和の叫び”を継承して――「世界平和祈願の日」から36年(海外通信・バチカン支局)
ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世が、1986年に世界の諸宗教指導者に呼びかけ、イタリア中央部にある聖都アッシジで「世界平和祈願の日」を実現させてから36年が経過した。その「アッシジの精神」を継承する聖エジディオ共同体(カトリック在家運動体=本部・ローマ)主催の「第36回世界宗教者平和のための祈りの集い」が10月23日から25日まで、『平和の叫び』をテーマに、ローマ市内のコンベンションセンター「ラヌヴォラ」と、ローマ帝国時代の古代史跡「コロッセオ」で開催された。世界50カ国の諸宗教指導者、政治指導者や識者らが参集。立正佼成会から、赤川惠一国際伝道部部長、佐原透修総務部次長(渉外グループ)、水藻克年ローマセンター長、加瀬育代渉外グループスタッフが参加した。
「ラヌヴォラ」での開会式では、同共同体の創設者であるアンドレア・リカルディ教授があいさつ。「祈りは苦痛の叫びの姉妹」であり、「対話が友愛と祈りのうちに育つ」との確信を表し、「神、聖典、人々との傾聴と対話が、諸宗教に共通する基本姿勢である」と主張した。
この後、セルジョ・マッタレッラ伊大統領が登壇し、「武器ではなく、対話、交渉、外交を中心とする国際社会の集団的努力を通した忍耐ある和平への道」が大切と強調。「ロシアが始めたウクライナ侵攻は、平和という価値に対する直接的な挑戦であり、ウクライナ国民を毎日、重大な危険に陥れるだけでなく、ロシア国民も打撃し、全世界に対して劇的な結果を生み出す。ウクライナ侵攻は、国際社会の規範、原則、価値を蹂躙(じゅうりん)する」と糾弾した。
エマヌエル・マクロン仏大統領もスピーチの中で、マッタレッラ大統領と同じく、「平和がロシア政権の虜(とりこ)とならないように」と述べ、平和がより強き者の勝利だったり、停戦が現状維持の再確認であったりしてはならないと警鐘を鳴らした。また、「ウクライナの人々は、彼らの自由、国境、領土、国家の主権を守るために抵抗している」のであり、「核兵器保有国を巻き込む、この侵攻の和平」は、「ウクライナ国民が望む時、彼らの主権が尊重されることによって実現される」と主張した。
さらに、ロシア政権は、「ソ連の崩壊に由来し、(プーチン大統領が)屈辱(として受け取った)を源泉とする自国至上主義」に悩まされており、「“平和を叫ぶ”ためには、屈辱や怨念といった感情とも闘っていかねばならない」と警告した。この現職大統領2人のスピーチを、ロシア正教会モスクワ総主教区外務部長のアントニー・ヴォロコラムスク大主教は最前列で聞いていた。
続いて、ウクライナ人のオルガ・マカールさん(聖エジディオ共同体)による戦争体験、ボローニャ大司教のマテオ・ズッピ枢機卿(伊カトリック司教会議議長)、フランスのラビ長(ユダヤ教)であるコルシア・ハイム師のスピーチが行われた。
最後に、ムスリム世界連盟のムハンマド・アル・イーサ事務総長があいさつ。イーサ事務総長は、「平和は叡智(えいち)である」と述べ、「私たちが重要視する対話は、冷静で、実りあるものでなければならない」と指摘し、「唯一の勝者は叡智の論理だが、その叡智は、現実に根を張っている必要がある」と訴えた。
24、25の両日には、会場内で『平和の源泉としての祈り』『欧州の未来に挑戦する戦争』『母なる大地――唯一の地球と人類』『諸宗教――対話と平和』『1962年~2022年――キューバ危機と核の脅威の昨今』『誰も一人では救われない――分断された世界における対話と多角主義』『共生――パンデミックの教訓』『世界化現象の危機における宗教の責任』などをテーマに14の分科会が行われた。参加者は、議論を通して諸問題を分析し、世界平和構築へ向けた諸宗教者の責任、役割と貢献を模索した。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)