「戦争に“聖”はない――キリル総主教」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

懇談で意見を交わし合うWCCのサウカ総幹事代行(写真左)とロシア正教会のキリル総主教(WCC提供)

戦争に“聖”はない――キリル総主教

世界教会協議会(WCC)は10月19日、イオアン・サウカ総幹事代行とロシア正教会の最高指導者であるキリル総主教が、17日にロシアの首都モスクワで懇談した内容を明かした。

キリル総主教は、「この試練の時に、私と私の民(信徒)たちに会い、私たちの教会関係にも影響を及ぼす困難な国際関係について話すため、ロシアを訪問してくださったことを歓迎する」との言葉でサウカ総幹事代行を迎えた。

これに対し、サウカ総幹事代行は、「WCCのメンバー諸教会が、強い関心と希望を持って懇談を見守っている」と述べた。今回のロシア訪問は、「WCC中央委員会の要請によって、中東のシリア、レバノン、イスラエル、パレスチナ、そしてウクライナといった“流血する傷痕”を持つ諸教会歴訪の一環」と説明。WCCのメンバー諸教会が持つ、ロシアによるウクライナ侵攻についての憂慮を伝え、「WCCの管理諸機関が採択した戦争と暴力を非難する一連の声明文は、ロシア正教会からの使節団も参加して草案が作られた」と明示した。

その上で、「ロシア訪問の目的は、私たちがどのようにして平和と和解の橋を構築し、流血と核の脅威を共に防ぐかについて話し合うため」と確認。キリル総主教に対し、「今日ここで、聖下が私たちにお話しくださった、流血、殺人、インフラの破壊を停止して和平と和解を求める言葉を、世界に向けて明確な声明文として公表することが大事」と伝えた。同総主教による公式な見解の表明が、「正教会を含む世界にとっての大きな助け」となり、また、「聖下の戦争に対する個人的な見解も明らかになる」からだ。

サウカ総幹事代行からの厳しい口調での要請に対し、キリル総主教は、「どのようなキリスト教の教会、信徒といえども、戦争や殺人を支持することはない」との確信を表明。「キリスト教の諸教会が平和の構築者と呼ばれ、生命を守り、擁護していくように誘(いざな)われている」と述べ、「戦争に“聖”はない」と言明した。

しかし、同総主教は、「自身や他者の生命を守るため、自らの生命を捧げることは別問題である」とも主張し、ロシアによるウクライナへの侵攻は、(北大西洋条約機構/NATOからの攻撃に対する)防衛であり、そのためにロシア軍兵士の生命が犠牲になっていると示唆する発言もしている。

さらに、「われわれは困難な時代に生きている」と指摘し、「その困難が、キリスト教の教会からではなく政治状況に由来し、それが今日、極限的に危険となっている」と警告。「現代のキリスト教教会は、(対立という)火に油を注ぐような行為ではなく、火を消すために、われわれに可能な限りの努力をしていかなければならない。その意味でも、WCCの役割を重要視する」と述べた。

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