イラクが戦場となることを恐れる――バグダッド大司教(海外通信・バチカン支局)
イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官らが1月3日、イラクの首都バグダッドで米軍の空爆を受けて殺害された。米国防総省は、「海外の米国人を守るために、米国の外交官と軍人を攻撃する計画を積極的に進めていたソレイマニ司令官の殺害を、トランプ大統領の指示によって実行した」と公表した。
マーク・エスパー米国防長官は前日の2日、イランや、イスラーム・シーア派の信奉を掲げる武装組織が米国を攻撃する可能性について言及し、それが現実になる兆候があれば「米軍や米国人の命を守るために先制攻撃を行う」と述べていた。イランの中東における軍事、政治政策の要といわれるソレイマニ司令官は、同国最高指導者のハメネイ師に次ぐ実力者であっただけに、同国は「長年にわたって米国とイスラエルに報復する」と宣言し、中東における軍事緊張が一気に高まっていった。
イランと隣接するイラクは、1991年の湾岸戦争、2003年のイラク戦争と、2回にわたり米国が主導する多国籍軍の軍事介入を受けた。1991年、ブッシュ政権(当時)はサダム・フセイン政権が大量破壊兵器を保有しているとしてイラク戦争に及んだが、証拠は検出されなかった。その後、イラクを含む、アラブ世界への民主主義の輸出という米国のネオコン(新保守主義)政策も功を奏していない。イラクでは両戦争からの復興がいまだ進んでおらず、最近では、経済危機による生活苦に対して市民たちが抗議運動を展開し、多数の死者が出ている。
イラクのカルデア派カトリック教会の最高指導者であるルイス・サコ枢機卿(バグダッド大司教)は4日、米国とイランの関係悪化の影響を受け、イラク国内で軍事的な緊張が高まることを憂慮し、「イラク国民は、先週の出来事(ソレイマニ司令官らの殺害)にショックを受け、イラクが再び戦場になることを恐れている」との声明文を公表。「こうした危機的な緊張状況にあっては、全ての関係者が対話を求めて、一つのテーブルに着くことが賢明である」と訴えた。