バチカンから見た世界(88) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

教皇が訪日に託した思い(2)――「教皇の訪日は最も素晴らしい旅行だった」

バチカンのマテオ・ブルーニ広報局長が、バチカン記者室にある佼成新聞のボックスオフィスに来て言った。「教皇フランシスコの訪日は、彼の諸国歴訪の中で最も素晴らしいものだった」と。

ブルーニ氏は、現教皇によって広報局長に任命されるまでは、教皇の国際旅行に随行する記者たちの担当官として、全ての国際訪問を見てきた。教皇は日本から帰国した翌日の11月27日、バチカン広場での一般謁見(えっけん)に臨み、タイと日本両国の訪問を振り返るスピーチをした。

タイ国民が有する肥沃(ひよく)な文化、霊的伝統に言及した教皇は、タイ訪問では、「さまざまに異なる国家構成員の間に調和を奨励し」「経済発展が全ての人々に恩恵をもたらし、特に、女性と未成年からの搾取という病根(セックスツーリズム)が解消されるように」と訴えた、と述べた。また、「仏教がタイ国民の歴史と生活の根本要素である」と指摘する教皇は、「歴代教皇が推進してきた相互評価の路線に沿い」、「慈しみと友愛を世界に広めていくために、タイ仏教僧団の最高指導者を訪ねた」と話した。

一方、日本訪問については、「私の訪日のモットーは、“あらゆる生命の擁護”だった」と振り返る教皇。「日本は、原爆による傷跡を焼き付けられた国であり、世界に向けて生命の尊重と平和という基本的権利を代弁する存在である」と発言。また、長崎と広島で祈り、被爆者とその家族と面会したことに触れて、教皇はバチカン広場に参集した信徒たちに、「核兵器に対する確かな非難を表明し、戦争で使われる爆弾を売りながら平和について語る偽善を糾弾した」と語った。

「あの(原爆という)惨劇以来、日本は、生命を守るための闘いにおいて、例外的な能力を示してきた」が、最近では、「2011年の、地震、津波、原発事故という三重の災害の前でも、その例外的な能力を発揮した」と称賛した。「生命を守るためには、生命を愛さなければならない」と呼び掛ける教皇は、「今日、発展した国々において、重大な脅威は、生きる意味の喪失からきている」と指摘。その脅威を克服していくには、「経済発展や技術の進歩だけでは充分ではなく、キリストが私たちに与え、そして、与え続けてくださる、父なる神の愛が必要なのだ」と諭した。