【オイカワデニム代表取締役・及川洋さん】新たな資源でジーンズを開発 環境に配慮したものづくりを

宮城・気仙沼市でジーンズを製作する有限会社オイカワデニムの及川洋代表取締役は、大量に廃棄されていたメカジキの吻(ふん=角)を活用したジーンズを開発した。東日本大震災を機に、地元の特性に目を向け、天然素材による環境に配慮したものづくりの一環だ。昨今、大量生産・大量消費・大量廃棄の経済システムは環境に多大な負荷を掛けると指摘されている。及川さんに、新たなジーンズが誕生するまでの軌跡や、環境に配慮したものづくりの大切さなどについて聞いた。

全て土に還るオイカワデニム 廃棄されたメカジキの吻から

――地球環境を守るために大量生産・大量消費・大量廃棄型のシステムを見直す動きが高まっています

服に関して言えば、大量生産によるファストファッションが特に注目され始めたのは2000年あたりです。安価なアパレル商品が人気となり、購入した商品を短期間で使って捨てるという風潮が強くなったように感じます。この頃から世界で綿の需要が急激に高まり、このままいくと2040年には世界人口の約3割が、綿100%の衣服を着られないという試算も出たほどです。

しかし、当時は「綿の在庫は世界中にあるから、なくなるはずはない」と思われていました。でも、実際には2017年には綿の需要と供給が同等になり、翌年には需要に対して100万トンの供給不足になりました。

現在、日本国内で流通しているアパレル商品の消化率(調達数量に対する消費数量の割合)は約5割で、残りは焼却処分されています。需要と供給のバランスが取れずに、大量廃棄されていることはとてももったいなく、大きな問題です。特に、日本は綿の輸入率が100%ですから、そうした廃棄分を減らしていかなくてはなりません。今後は利益を求めつつ、環境のことを考えた商品の開発や生産、販売の仕組みが求められると感じています。

――生産する側も消費者も、世界や地球のことを考えていくことが必要ですね。ジーンズにメカジキの吻を使おうと思ったのはどうしてですか

商品開発のきっかけは、東日本大震災が発生して弊社の工場が避難所になったことです。気仙沼は水産業が盛んな地域ですが、私たちのような“陸の人間”と漁に携わる“海の人間”は、生活している時間が全く逆なため、それまでは道ですれ違えばあいさつする程度で、密に接することはありませんでした。

それが一緒に避難生活することになり、自然と互いのことをいろいろ話すようになりました。この時の漁師の方との話から、今まで何かに加工されていると思っていたメカジキの吻が、全て廃棄されていることを初めて知ったのです。その量は年間で数十トンに上り、漁師の方が命懸けで取ったものが捨てられていることにショックを受けました。

「OIKAWA DENIM」(左)の特徴を説明する及川氏

実際にメカジキから切り落とされた吻を見せてもらった時、〈断面の繊維っぽさが糸になりそうだ〉と感じました。それで、吻を持って各地の紡績や繊維、機織りの職人さんたちに「これでジーンズを作りたい」と話して回ったのです。どの人も最初は苦笑いしていましたけれど、真剣に取り組んでくださったおかげで、2年後にメカジキの吻と綿の混紡糸が完成しました。地域の特性を生かし、自然にも優しいその糸を使って「OIKAWA DENIM」というジーンズを製作しました。

――開発したジーンズの特徴を教えてください

このジーンズには、「物を作る立場から環境に対してどういうことができるか」という社会への投げ掛けと挑戦の気持ちを込めています。ですから、自然素材のみで作るように心がけました。先ほど紹介した混紡糸は、オーガニックコットンに、粉砕したメカジキの吻を35%織り混ぜてできています。金属のリベットとジッパーを使わず、ボタンには天然のヤシを利用しました。

海外では服を処分する際、金属のボタンやフック、ジッパーはおのおので外してから捨てるといったルールが決められている国もあります。このジーンズは自然素材のみで作られているので、極端な話ですが、使い終わった後にそのまま屋外に脱ぎ捨てても、全て土に還(かえ)ります。

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