TKWO――音楽とともにある人生♪ バリトンサクソフォン・栃尾克樹さん Vol.3
インスペクターとして楽団員の働きやすい職場環境づくりに尽くしてきた栃尾克樹さん。人知れぬ苦労も、笑い話で振り返る、豪胆な性格の関西人だ。入団して15年、定年まで5年を残し、奏者としてさらに磨きをかけたいこと、また楽団員として大切にしていることを聞いた。
曲の個性を表現することが奏者としての役割
――サクソフォンを演奏し続けて43年になりますね。これまで奏者として大事にしてきたことは?
自分の個性をこれ見よがしに出そうとはせずに、作曲家の意図したものを可能な限り読み取って、それぞれの曲が持つ、個性を表現することです。楽譜に書かれていることだけでなく、楽譜を通して作曲家が伝えたかったメッセージをひもといて、音に組み立てることが演奏家の役割だと思っています。
特にサクソフォンは、誕生してから180年ほどの新しい楽器なので、それ以前に作られた曲を演奏する時は、よくよく気をつけないといけません。200年、300年も前の曲を演奏することもありますが、その当時の作曲家はサクソフォンの音色を知る由もありません。新しい時代を駆け抜けてきたサクソフォンらしく演奏してしまうと、作曲家の意図する世界感を変えてしまいます。そうすると、その曲を演奏する意味がなくなってしまう、とも考えてしまいます。作曲家の意図と全く同じとはいきませんが、彼らが音によって表現したかった世界を少しでも再現できるように、楽譜をじっくり読み込む。そのことを大事にして演奏をすることを心がけています。
――入団して15年。定年まであと5年ですが、楽団員として大切にしたいことはありますか
僕が入団した時から楽団員の半分以上が変わりました。それでも、フレデリック・フェネルさんをはじめ、多くの先輩方が築き上げて、59年間の楽団の歴史で培ってきた「東京佼成ウインドオーケストラ」という楽団のカラーは根本的には変わっていません。そのカラーを大切にしたいと思っています。
佼成ウインドのカラーは、僕自身が演奏家として大切にしたい、こうあり続けたいと思う姿と同じで、音楽ととことん向き合うというものです。例えば、今回演奏する曲の作曲家は何を伝えたかったのか、このことを皆できちんと読み取ろうとします。その上で、楽器の特性、曲で必要とされている役割をそれぞれが考え、奏者として自分はどういう演奏をしたらいいかを追求する。これは、当たり前のように聞こえるかもしれませんが、こうした当たり前の準備を堅実に行うことを大切にしているんです。時代が変わろうとも、それはブレないところです。
最近は、ロールプレイングゲーム「ドラゴンクエスト」の挿入曲の演奏会なども行っています。昨年の吹奏楽大作戦では、アニメソングとゲーム音楽だけでプログラムを構成したり、初めてアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の演奏会を開いたりもしました。そうやって、一昔前のうちの楽団ではすることがなかったことに少しずつ挑戦をしていますが、新しいことをするにしても、うちの楽団のカラーが崩れることはありません。
アニメやゲームで使われる楽曲は、描き出される場面を盛り上げるものとして使われます。ゲームのプレイヤーが高揚感を得られるように、また、アニメの映像を一層引き立てられるように使われる音楽であるわけです。でも、演奏会は、その世界から音楽だけを切り抜いて提供するものですから、ゲームやアニメの場面を思い浮かべてもらうだけの演奏ではなく、初めて聴く人でも、音楽として聴いて、ワクワク感を抱いてもらえる演奏を届けられるように努めています。そのためには、音楽としての魅力を最大限に引き出すため、楽譜と向き合い、優れた音楽を表現することが大切であり、それが僕たちの仕事です。