TKWO――音楽とともにある人生♪ トランペット・奥山泰三さん Vol.3
世界の吹奏楽界の巨匠であったフレデリック・フェネルさんとの出会いを通じて、奥山泰三さんのトランペット奏者としてのプロ意識は培われてきた。演奏する上での心得や指導者としての顔、日本の吹奏楽界への貢献も視野に入れた演奏活動などを紹介する。
全ては吹奏楽ファンを増やすため
――演奏する上で心がけていることは?
まず、ウオームアップを毎朝、平均して30分程度は行っています。朝起きて、午前中のなるべく早い時間に自分の体調を確認しながら、唇の震わせ方や吹く息の量、音を出しやすい呼吸の仕方や身体の姿勢などを入念に調整し、「トランペットを吹く口」をつくるのです。自宅、東京佼成ウインドオーケストラの練習場ではもちろんのこと、滞在先のホテルでは音を小さくできるミュートを使って欠かさずに行っています。
もう一つは、ルーティンを守ることです。団員として長年、経験を積み重ねてきた中で、「トランペット奏者の奥山」として、してはいけないことがルーティンとして蓄積されてきました。例えば、公演日の本番前は、カフェイン入りのコーヒーなどの飲料は一切、飲みません。カフェインを摂取すると、身体に気合が入り過ぎて、逆にうまく吹けなくなるからです。
ほかにも、本番1時間前にはステージ衣装に着替えておくことで、靴下などの忘れ物をしても、余裕を持って買い物に行ける時間を確保しています。普段と違っていたり、緊張したりするような要素には徹底的な対策を行う。全てはいつ、どこの会場でも平常心でベストパフォーマンスの演奏をするためです。そうした努力を怠らないのもプロの音楽家だと思っています。
――音楽家としての今後の展望についてはいかがでしょうか
佼成ウインドの団員としての時間も残り少なくなってきて、その先を見据えていく時期に差し掛かっていると思います。その中で、音楽的に自分の持てるものを後進に伝えていくという作業が一つ、そして、これまでなかなかできなかった、本当にやりたい演奏活動、この二つを柱にして、これから活動していきたいですね。
現在、数多くの高校や大学の学生を対象に音楽を指導しています。それだけでなく、地方の市民楽団で社会人の団員に対する指導も定期的に行っています。一方で、少子化の影響で演奏者の人口も減っていけば、今後、日本の吹奏楽は衰退の危機に直面するかもしれません。そうならないためにも、全国各地で引き続き指導に当たりながら吹奏楽の魅力を発信し、吹奏楽界の発展に貢献したいと考えています。
また、60歳からは、聴きに来てくださったお客さんとの距離が今よりももっと近い、小規模のサロン的な集まりの中での演奏をたくさんやってみたいと思っています。それはいわば、楽器を通したお客さんとの対話のようなものです。演奏を1時間ほど行って、その後はお客さんとそのまま一緒にお茶やお酒を飲みに行って、吹奏楽だけでなく広く音楽全般について語り合うのも楽しいかなと想像しています(笑)。
でも、ただ楽しいだけではなくて、小規模で演奏会を行うことは、これまで吹奏楽にご縁のなかった人にも、演奏を聴く機会や環境をつくることになるのではないかと考えているのです。私もそういう方々と語り合うことで、新たな経験が得られるでしょうし、そこから自分の演奏に反映することもできるでしょう。そうやって少しずつ、吹奏楽の裾野を広げていくお手伝いができたら、こんなにうれしいことはありません。