バチカンから見た世界(56) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

欧州のポピュリズムとキリスト教

ハンガリー議会(一院制、定数199)の選挙が4月8日に行われ、オルバン首相が率いる与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」が圧勝した。

同連盟は、大衆の願望や不安を利用して扇動するポピュリズムの政党として知られる。2010年に過半数の票を獲得し、オルバン政権が誕生。前回の14年の選挙では3分の2以上の議席を占めた。今回も、「反移民・難民」を掲げて大衆の排外感情をあおるとともに、「反欧州連合(EU)」を主張して選挙戦を展開し、前回と同じく憲法改正に必要な3分の2の議席数を獲得した。強硬派のオルバン首相は3期目に入る。また、03年の結党後、反ユダヤ主義を掲げ、「新ナチス」と批判されている極右政党「ヨッビク」が20%近くの得票率を得て、第2党に躍進した。

欧州では、ポーランドでポピュリズム政党の「法と正義」が政権を担っている。隣接するチェコでも、昨年10月に行われた総選挙(下院、定数200)で、「チェコのトランプ大統領」と呼ばれる実業家のアンドレイ・バビシュ氏を党首とする「ANO2011」が30%近くの得票率を得て第1党となり、同国にもポピュリズムの風が吹き始めた。12年に結成されたANOは、反汚職、反既成政治を訴える「反体制派」「反エリート」の政党で、移民排斥のアピールを続ける。ポーランド、ハンガリーの政権と同様に、EU懐疑派でもある。また、EU懐疑派の「市民民主党」や、日系人トミオ・オカムラ氏が率いる反イスラーム、反EUを掲げる「自由と直接民主主義」の台頭も、EUの懸念として注目されるべきとの意見は多い。

ポピュリズム政党の「五つ星運動」と「同盟」が圧勝したイタリアでは、大統領府で組閣に向けた交渉が行われている。しかし、4月14日現在、首班指名と、中道右派連合の「フォルツァ・イタリア」との連立を巡って両党が対立し、行き詰まりを見せている状況だ。

かつての東欧諸国のみならず、西欧のオランダ、フランス、ドイツでもポピュリズムや自国至上主義が広がり、極右の政治勢力が台頭している。この現状を前にして、欧州統一プロセスに「魂を入れる」ことを訴える、欧州大陸の伝統宗教であるキリスト教諸教会は、この問題に、どのように対処しようとしているのか?