バチカンから見た世界(52) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

女性差別に抗議するカトリックのシスターたち

ローマ教皇フランシスコは、社会が発展しているにもかかわらず、男性優位のメンタリティーが今なお存続し、女性に対する暴力は収まることがないとの憂慮の念をたびたび表してきた。広告や娯楽業界では、女性が享楽的な対象物として扱われるなど、「女性の虐待が存在し、人身売買の被害や経済的利益の犠牲を被っている」との考えも示している。

そうした懸念は、カトリック教会内に対しても同様で、これに関する発言は少なくない。実際、キリスト教徒はそれぞれが奉仕の役割を実行するように促されているが、「女性の場合は時折、真の奉仕というよりは召使に近い役割を強いられている」と指摘している。

性別による不平等を糾弾する教皇の主張は、スペインのサラマンカ教皇庁立大学でカトリック教会の社会理念を教えるマリアテレーザ・コンプテ教授による書籍『教皇フランシスコが女性に提案する10項目』に寄せた序文の中で明らかにされた。この中で、教皇は、全ての人の成育環境や育まれた心情を踏まえた、文化的感受性の発展につなげる人類学的研究から、女性のみならず、男性のアイデンティティーについても考え直し、人類全体が常により良い方向に進んでいくことを提案している。

こうした教皇の見解に励まされ、カトリック教会内部で枢機卿や司教、神父たちの身の回りの世話をするシスター、教区や教会の施設で働くシスター、カトリック系の学校や病院に勤務するシスターたちが少しずつ、彼女らが就く労働の目的、条件、環境についての意見、特に男性の聖職者に比して差別待遇を受けているとの抗議の声を上げ始めた。バチカン日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」の月刊付録誌「女性、教会と世界」3月号が、「女性と労働」に関する特集を組み、仮名ながらも、抗議するシスターたちの声を伝えている。