【映画監督・大宮浩一さん】一通の手紙に心動かされ 夜間保育の現場を映画に

夜間保育園を利用する子供や親、保育の日常を追ったドキュメンタリー映画「夜間もやってる保育園」が1月20日から東京都内の劇場でアンコール上映されている。さまざまな事情を抱えながら懸命に生きる親子の様子や、子供が夜も安心して過ごせるよう奮闘する保育士たちの姿を通し、「夜間保育」の実情を伝える大宮浩一監督に、現代の子育てや家族の様態について聞いた。

周囲のサポートと愛情が子供を守り、親を支える

――映画の舞台となった夜間保育園とはどんな場所ですか

それぞれの地域性、親と子供の必要性に合わせて深夜まで運営している保育園です。中には、24時間体制の保育園もあります。今回、主な舞台となったのは、東京・新宿区大久保にある認可保育所「エイビイシイ保育園」です。近くには、ネオンがきらめく歌舞伎町やコリアンタウンがあり、0歳児から就学前までの約90人が通っています。夜間保育園ですが、生活リズムを考えて、ほとんどの子供たちは午前中に登園し、年齢に応じた遊びや散歩、クラス活動などをして過ごします。

就学前の子供は、親の庇護(ひご)のもとに育ちます。ところが、家庭の事情が複雑だったり、親が夜間まで働かざるを得ない事情を抱えていたりして、近くに身寄りがない場合、一人ぼっちで留守番をするケースも少なくありません。

子供たちにとって家庭は本来、親から「生まれてきてくれてありがとう」と言ってもらえる、安心・安全な場所です。家庭でそのような経験ができないのなら、地域の心ある大人たちで、子供を支えていこうと生まれたのが夜間保育園なのです。

現在、厚生労働省の認可を受けた夜間保育園は全国に80カ所。無認可の夜間保育園(ベビーホテル)は約1万7500カ所あって、3万人以上の子供が預けられています。とはいえ、その絶対数が足りないのが実情です。

――今回の映画を撮ろうと思ったきっかけは?

一昨年の正月明けに一通の手紙を頂いたんです。差出人は、「エイビイシイ保育園」の片野清美園長さん。夜間保育の必要性や現場の様子が切々とつづられていました。夜間保育園はとかく、「子供がかわいそう」「なぜ夜間に子を預けてまで働くのか」と偏見や批判にさらされることが多い一方、その実態はあまり知られていないといいます。そこで、夜間保育の現状をありのままに伝えてほしいという依頼を受けたのです。

片野園長は以前に私のドキュメンタリー作品を何本か見てくださっていて、〈映画を撮ってもらうなら、この人しかいない〉と心に決めていたそうです。

共働きやひとり親、深夜の仕事……家庭の環境や働き方が多様化する中、働く親を支え、子供たちを守ろうとする大人たちがいる。夜間保育というフィルターを通すことで、現代社会の何かが見えるかもしれない。これは面白い題材だなと思い、片野園長の保育園を訪ねることにしました。

映画のワンシーン。「エイビイシイ保育園」の様子(©夜間もやってる製作委員会)

――夜間保育園の印象は?

私自身、夜間保育についての知識がほとんどなく、もともと〈夜に子供を預けてまで働きに出るなんて……〉と思っていたので、あまりいいイメージがありませんでした。子供たちをふびんに思っていたのです。ところが、実際に何度か足を運ぶうちに、天真らんまんに遊び回る子供たちの姿がとてもまぶしく映るようになりました。

ここでは、「お皿を運んでくれてありがとう」「嫌いな野菜を食べられるようになって偉いね」とか、いろいろな物差しで褒められるから、子供たちに自己肯定感が育まれます。片野園長はじめ、スタッフの姿勢は、一貫して子供たちを丸ごと受けとめ、共感し、心に寄り添い続けるといったものでした。

また、親御さんに悩み事があればどんなことでも相談に乗る。ADHD(注意欠陥・多動性障害)の疑いの子がいれば、専門家を招集して療育教室を開く。このほか、栄養面にも配慮し、昼夜の給食に使う野菜は全て有機野菜で、職員の研修旅行には有機野菜農家を訪ねるほどの徹底ぶりです。私が見た夜間保育園は、当初のイメージとは大きくかけ離れ、温かい愛情で包まれた安全基地のようでした。

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