【特別インタビュー 第41回庭野平和賞受賞者 モハメド・アブニマー博士】諸宗教の教えを生かし和解・共生の道へ 戦争を止めるために、共に祈りと行動を

利害を超えた正しい道

インタビュアーを務めた庭野浩士理事長

庭野 イスラームの真の教えや価値観を伝え、宗教間対話や平和教育の実践マニュアルでもある先のご著書は高く評価されています。

私は仏教徒ですが、キリスト教の神学を学びました。それによって、諸宗教には共通する教えがあること、また、一人ひとりを尊ぶ仏教の深遠さも改めて学ぶことができました。さらに、異なる宗教に敬意を持ち、互いの考えを理解することで生まれる相互信頼や平和の尊さを身をもって感じたのです。

近年、紛争解決の手段として対話の重要性が認識されていますが、博士は政治的、経済的側面、統治のあり方ばかりに焦点が当てられて、うまく機能していないと指摘されています。その上で、赦し、和解を実現するには、人々の精神的・宗教的アイデンティティーを対話に組み込むことが必要と強調されています。真の赦し、和解をもたらすのに宗教や精神性の要素が欠かせないのはなぜですか?

アブニマー それは、世界の85%の人が信仰を持ち、その大半が宗教的なアイデンティティーや価値観、倫理観に基づいて物事を見、解釈しながら生活しているからです。ですから、紛争の和解を図っていくにも、それぞれの宗教、信仰を基に発せられる人々の言葉にしっかり耳を傾け、彼らの理解を得ていくことが欠かせません。赦しや和解の当事者となる人々が自分の言葉で語る場と、対話や議論の内容を受けとめ、理解を深めていく時間が必要なのです。

しかし、実際には、そのことが見過ごされがちです。つまり、紛争後に結ばれる条約や協定がうまく機能しないのは、宗教や信仰を別にして当事者間の対話を進めようとするからで、それでは、人々の理解は得られないでしょう。

紛争自体に宗教が関わっていないとしても、赦しや和解に宗教が果たす役割が大きいことを私たちは認識しなければなりません。特に、宗教者、宗教指導者の役割は重要です。宗教者は自国や自民族の利害を超えて正しい道を示し、平和のために人々を、コミュニティーを導くことができます。

コロナ禍を思い出してみましょう。コロナ禍は宗教的な出来事ではありませんが、宗教者の呼びかけを通して、私たちはどう振る舞うべきかを考えたと思います。

また現在、モスクや教会、ヒンドゥー教寺院などさまざまな宗教施設で気候変動による危機について話がされています。難民や移民に対する支援についての話もされています。このとき、暴力を諫(いさ)め、人類全体の幸せ、共生や平和の大切さを説く宗教指導者のメッセージが人々に大きな影響を与えます。赦しや和解を実現するのにも同様です。実際、宗教機関や宗教者が関わると、よりスムーズに紛争の解決に至ることが研究成果として実証されています。

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