心ひとつに――東日本大震災から10年 澤邉雅一磐城教会長に聞く

悩み苦しむ人の心に寄り添い 共に歩み、笑顔になれるよう触れ合う

今年2月13日、福島県沖を震源とするマグニチュード7.3の地震が発生しました。いわき市は震度5強の揺れに見舞われ、その2日後には、暴風雨により道路の冠水などの被害が出ました。後日、会員さんと話をしていると、ほとんどの方が「東日本大震災が起きた当時を思い返した」と言われます。あの時の不安や恐怖は、10年を経た今も強く残っているのだと改めて感じました。

福島県は今も、原発事故で飛散した放射性物質の影響を受けています。いわき市では、いまだに2万を超える人々が避難生活を送っています。さらに、震災の直接的な被害のほか、生活再建のための借金、事業の倒産、環境の変化による家庭不和などの問題も生じました。漁業も試験操業から本格的な操業を目指していますが、放射能汚染水の処分方法によっては、風評被害の再燃が懸念されています。会員さんの中には、避難生活を送る方、原発の関連施設で働く方、漁業を営む方などさまざまおられます。10年が経ちますが、「当時のことは思い出したくない」という方も少なくありません。震災の被害と原発事故は、今も日常生活や人々の心に大きな影響を与えているのです。

そうした状況の中、会員さんは信仰を支えに、懸命に生きてこられました。震災当時、福島支教区では『心に本仏を勧請する』という開祖さまのご法話を皆で心の依りどころにしました。そして、今も心の支えとしている方がたくさんおられます。

私が2015年に赴任した時、会員さんの中には、「どのような状態に置かれても、また、どのような人と触れ合っても、常に仏さまのはからいと慈悲をしっかり感受できる信仰者になってほしい」というご法話の一節に触れ、とても仏さまのはからいと受けとめることはできないと思う方もおられました。しかし、不安や悲しみの中で、「開祖さまのお言葉だから」と長い時間をかけてその意味をかみしめ、現実の苦と向き合い続けてこられたのです。苦を受けとめられたのは、共に悩み、共に泣き、励ましてくれるサンガ(教えの仲間)の存在があったからとも言われます。お一人お一人の篤(あつ)い信仰心、また支え合ってこられた姿に触れるたび、私はいつも心を打たれます。

ある会員さんは、原発事故で自宅に住めなくなり、避難されてきたのですが、周囲の何げない言葉に疎外感を感じて深く傷ついた経験があります。そうした時、いつもサンガが親身に話を聞き、寄り添ってくれたそうです。心通う仲間と共にお役を務めるうち、つらい体験が身に染みている自分だからこそ、同じように苦しむ人の気持ちも理解できると、それまで以上にお役に励まれております。まさに、「苦をなくすのではなく、苦をきっかけにして救われていく」という佼成会の教えを体現されています。

今も残る震災の影響に加え、昨年からは新型コロナウイルス感染拡大という未曽有の事態に直面し不安が増しておりますが、信仰によって、サンガの支えによって大きな苦を乗り越えてきたからこそ、人の苦しみに心から寄り添うことができると思います。

目の前の人が悩み苦しんでいたら、その心に寄り添い共に歩み、笑顔になれるようやさしさをもって触れ合う――それが、これまで多くの方から頂いたやさしさや温かさに対する恩返しになると信じ、これからも皆で仏道を歩んでまいります。