庭野光祥次代会長に聞く――『宗教協力が育む力』(2)
スタルセット師の行動に学び
――新型コロナウイルス感染症の影響で実現しませんでしたが、今年3月の全国教会長研修ではWCRP/RfP国際名誉会長のグナール・スタルセット師の講演が予定されていました。スタルセット師について教えてください
スタルセット師は、佼成会とはご縁が深く、庭野平和賞委員会の委員長をお務めくださり、宗教協力に基づく平和構築への功績により「第30回庭野平和賞」を受賞された方です。ノルウェー国教会オスロ司教を務め、ノーベル平和賞選考委員会のメンバーとしても活躍されました。
ノルウェーは決して大国ではありませんが、紛争の調停や和平に積極的に取り組むことで知られています。そうした国にあって、スタルセット師はWCRP(WCRP/RfP)の諸宗教対話・協力活動を重要視され、平和を願って本気で取り組まれている方です。
昨年の第10回世界大会の開催に向けても、事前の会合から主導的な役割を果たされました。また、ミャンマーのアドバイザリー・フォーラムにおいても同様です。今年85歳を迎えられましたが、「ミャンマーの民族対立は世界の危機」との意識から足を運ばれています。
ご存じのように、仏教徒が多数を占めるミャンマーでは、イスラーム教徒であるロヒンギャの人々の権利が著しく制限され、仏教徒との緊張関係が長く続いてきました。近年も、大きな武力衝突が起こり、迫害を受けたロヒンギャの人々が難民になっていますが、キリスト教徒であり、北欧に暮らすスタルセット師にとって、この問題は宗教的にも地域的にも決して関係が深いわけではありません。それなのに、「傍観できない」と言ってミャンマー委員会の方々と共に、アウンサンスーチー国家顧問をはじめ政府高官と議論を重ね、ロヒンギャが多く暮らすラカイン州にも実際に行かれて、解決のために行動されているのです。そこに悲しむ人、苦しむ人がいたら、それは自身のことである、というこのご姿勢は、世界を縁起で捉えるということそのものだと、私には見えます。心から尊敬する宗教者のお一人です。
――スタルセット師に教会長研修で講演を依頼した願いとは何だったのですか
これは、先の杉野さんとの何げない会話がきっかけです。
杉野さんは佼成会の本部職員を経て、長年WCRPの国際委員会で、諸宗教対話・協力の推進に取り組んでいます。うまくいかないことや課題だらけの毎日を、開祖さまのご法話やお言葉を心の支えにしてお役を果たされていると伺いました。
心の支えにしている開祖さまのお言葉の一例として、こんな話をしてくれたことがあります。紛争の和解など世界の問題を議論する国際会議や会合を開くには、多額の資金が必要で、さまざまな法人や時には政府などに資金提供を依頼するのですが、拠出する側は成果を示すように言ってきます。成果が出ないものに資金を提供できないというわけです。それは当然のことです。けれど開祖さまは「簡単に成果が出ないことに一生懸命に努力するのが宗教者だ」という趣旨のことをおっしゃっています。資金を得るには成果を出さなければならない。けれど宗教者は成果の出にくい、人々から見向きもされないような、何の得にもならない、埋もれている苦しみに向かい合わなければいけない。杉野さんはその葛藤の中で、「開祖さまの言葉を何度も読み返しては、心を奮い立たせてチャレンジしています」と胸のうちを明かしてくれました。
そんな情熱を持って取り組んでいる杉野さんがある時、「スタルセットさんと一緒に活動していると、もし開祖さまと一緒に活動させて頂いたとしたら、きっとこうだったのではないかと思うことがたくさんあって、泣けてくるのです」と話してくれたことがありました。
その、開祖さまとスタルセット師に通じる“何か”を全国の教会長さんと一緒に知りたいというのが私の願いでした。そこで、教会長研修での講演をお願いさせて頂きました。
スタルセット師は諸宗教対話を通じて世界平和のために尽くされていますから、そうした活動の一端を分けて頂くことで多くのことを学ぶことができると思います。でも、それだけではありません。スタルセット師を通して、開祖さまに出会えるかもしれません。偉大な人格とは、そういうものなのではないかと思うのです。その出会いは、日々の布教活動や信者さんとの触れ合いに大きな意義をもたらし、自信と喜びにつながるはずです。「私たちは、この道を歩んでいく」――そのための力が湧くようなお話を頂けると確信していました。