【特別インタビュー 第36回庭野平和賞受賞者 ジョン・ポール・レデラック博士】 真の平和を目指して――紛争の見方を変える

紛争の背景にある関係性、社会構造を変革

庭野 「紛争変革」の発想の原点は何ですか?

レデラック 1980年代に内戦が続くグアテマラで体験した出来事が原点です。メノナイトの中央委員会で働いていた私はこの国に赴任して間もなく、市民を対象にした紛争解決のワークショップの提案書を作りました。

私が提案書の内容を現地の人々に説明すると、その場にいた一人から、「これによって、あなたは何を変えられるのか」と問われました。続けて彼は、「海外から大勢の人が来て目の前の問題を解決するが、現状は変わらない」と訴えたのです。

苦い経験ですが、この瞬間に私は閃(ひらめ)きました。表面的な問題を解決したとしても、根本の構造が変わらなければ似たような問題が繰り返し起こる。求められていたのは、目の前の問題の解決だけでなく、その背景にある関係性の変化や変革なのだと。そして、紛争変革について考え始めたのです。

レデラック博士

庭野 命の危険がある紛争地に入っていく時に意識していることはありますか?

レデラック 信仰によって一つの道しるべを得ています。人は神の姿に似せてつくられたということにつながるのですが、意識しているのは、「相手の中に神の存在を見る」ということです。相手が自分を信用しているか分からない場面であってもです。人間は誰もが、神によっていのちの輝きを与えられているのですから。そのことを大切にして和解、調停に臨んでいます。

庭野 法華経にも全ての人間が悟りを得られると書かれており、人間は等しく尊いという意味になります。私たち会員は全ての人を「仏になる存在」と見るよう努めていますので、博士のお言葉にとても共感します。

博士にとって、平和とは何ですか?

レデラック 人間が生活を営む上で、衝突や紛争は普通のことですから、紛争がないことが平和だとは考えていません。衝突や紛争が起きた時、もしも相手を理解し、尊敬し、大切に思う関係を構築することができれば、そこに、これまでにない正のエネルギーが生まれます。それはダイナミックで、「動的な平和」とも言い換えられると思います。

武力紛争や内戦などはこれには当たりませんが、より良い変革を起こし、社会を変えていける程度の紛争を契機として、平和をつくっていけるのです。つまり、仏教の真理である、常に変化し続けること(諸行無常)を前提とした平和です。

庭野 日本人は安穏な境地に平和を連想します。それは動きがない状態です。博士がおっしゃるのは、動的な平和なのですね。

レデラック そうです。ハーモニーという言葉でも表せると思います。オーケストラは、さまざまな楽器が音を奏でますが、全てが調和し合い、それぞれの音色が互いを生かし合って一つの曲を作り上げます。

また、旧約聖書には、多様性の物語が描かれています。神は光と影、土地と海、植物と動物をつくられました。桜の木が二本あったとしても、一本一本が全く違う。これは神の恩恵です。違いが尊重されて、全ての人が大切にされる――多様性こそがこの惑星・地球を豊かにしているのです。

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