【特別インタビュー 第36回庭野平和賞受賞者 ジョン・ポール・レデラック博士】 真の平和を目指して――紛争の見方を変える

絶対平和主義を伝統に持つメノナイト(キリスト教再洗礼派の一つ)の信仰を基に、世界の紛争地で調停や和解に取り組み、「第36回庭野平和賞」を受賞した米国ノートルダム大学名誉教授のジョン・ポール・レデラック博士。紛争だけでなく、その元にある対立や差別といった構造にも目を向け真の解決を目指す「紛争変革(紛争変容、紛争転換=Conflict Transformation)」の理論を提唱し、平和構築に努めてきた。贈呈式出席のため来日したレデラック博士に、公益財団法人・庭野平和財団の庭野浩士理事長がインタビューした(5月8日、東京・港区の国際文化会館)。人類が多様性を尊重しながら連帯して課題を乗り越えていくために必要な視点とは……。(本文敬称略)

衝突は互いを見つめ直すチャンス

庭野 レデラック博士は、世界の紛争地で調停や和解、平和構築に取り組んでこられました。その際、「紛争変革」の概念を提唱されています。どのような理論ですか?

レデラック 「紛争変革」とは、簡単に言えば、「今まで見えなかったものを見えるようにする」という概念です。

私たちは日頃、目に見えるものをめぐって争っています。例えば私と妻が共働きで、仕事場から帰宅すると、流し台に汚れた皿があるとします。朝は早く出掛けるために、使った皿をそのままにしてしまったんですね。二人ともとても疲れていますが、どちらかが皿を洗わなければなりません。汚れた皿をどちらが洗うのかをめぐって突然、夫婦間の紛争が起こるわけです。

ここでは、「誰が洗うのか」が問題であるように見えながら、本当はそれだけではありません。衝突の根本に、夫婦関係に不満がたまっている、また、思いやりがなく相手に尊敬されていないと感じているなど、目に見えない原因があるからです。汚れたままの皿は一つの火種にすぎないのです。しかし、実際には、「私が洗えばいいんでしょ」「僕が洗えばいいんだろう」と腹を立てて、その場しのぎの解決をするだけで済ましてしまい、また同じことが繰り返されてしまいます。

紛争地でも同じです。対立や差別が結果として武力紛争に発展してしまったという場合が多くあります。「変革」とは、表面化した衝突や紛争の解決にとどまらず、目に見えない対立や不信といった問題を可視化し、関係を良い方向に変える試みのことです。衝突や紛争は、自分自身の内面を見つめ直し、変革する機会であり、相手との人間関係、組織や社会の構造、さらに文化の変革をもたらすチャンスでもあるのです。

【次ページ:紛争の背景にある関係性、社会構造を変革】