特集・第10回世界宗教者平和会議世界大会に向けて WCRP/RfP日本委「平和大学講座」で光祥次代会長が基調発題
積極的平和 共にすべての命を守るために
今回のテーマの日本語訳については、Careという訳すのが難しい言葉に、よくぞ「慈しみ」という言葉を見つけてくださったと感謝しております。ただ「Caring for Our Common Future」は、むしろ「慈しみ」がパンクしてしまった状態です。もう政府だけでは対応できない、宗教コミュニティーと連携しなければ身動きがとれない。そこにドイツ政府が資金援助をしてくださる理由があり、ドイツで開催される意味があるのだと思います。
WCRP/RfPでは、テロや紛争など「平和への脅威」に対する取り組みと、「積極的平和」への取り組みを区別しつつ、両面から平和への取り組みを進めてきました。「積極的平和」とは、「平和は戦争や紛争がない状態だけを指すのではない」という考えのもと、貧困・飢餓・抑圧・差別などの構造的暴力をなくし、平和と安定の創出のために能動的、積極的に行動する平和主義のことです。
WCRP/RfPでは、各宗教に共通する積極的平和の要素を模索してきましたが、2006年の京都での第8回世界大会で「Shared Security(分かち合う安全保障)」が「積極的平和」の一つの側面であることに気がつきました。一般的に、国際政治の中の「Security(安全保障)」とは、線を引いて、ここからこっちは仲間、ここから先は敵という区別をつけることで、Securityという言葉自体に、守られる所と守られない所、敵と味方が出てくるのです。
しかし「Shared Security」は「すべての人が安全であることを皆で推進する」という積極的な状態です。これは当時WCRP/RfPによってつくられた新しい概念であり、これまでの世界秩序へのアンチテーゼと言えます。これまでのような線引きではなくて、みんながSecure――安全でなければ真の安全はないということです。また、「共にすべての命を守るために」という日本語訳にも表れているように、人間だけでなく、環境や他のすべての生命も含んでいます。
もう一つの「積極的平和」の実例は、2013年に『他者と共に生きる歓(よろこ)び/Welcoming the Other(他者を歓迎する)』というテーマで開催されたウィーン大会で明らかになりました。世界中で他者への社会的敵意が湧き上がる中、すべての他者を歓迎し、肯定的な態度をとることが、すべての宗教が共有している基本姿勢であると皆が一致しました。今年の大会のサブテーマ『Advancing Shared Well-Being(分かち合う幸福を推進する=仮訳)』は、この「積極的平和」の意識を深める機会になると期待されています。