知っていますか 私たちの暮らしと憲法が深くつながっていること(2)

憲法改正に前向きな国会議員が衆参両議院で3分の2を超え、「改正」が現実味を帯びている。こうした中、多くの人に憲法の意義や日本国憲法の理念を知ってもらうため、「明日の自由を守る若手弁護士の会」(あすわか)では各地で「憲法カフェ」を開催している。憲法を学ぶ大切さについて種田和敏弁護士に聞いた。

それは「水や空気」のようなもの

――そもそも憲法とは、どういうものですか?

憲法とは、主権者である国民が、政治を行う人に「しばり」をかける――いわば「王様をしばる法」です。国民の人権を保障するために、憲法によって国民が国家の権力をしばる仕組みを「立憲主義」と呼びます。

この「しばる」には、二つの意味があります。一つは、国家権力が国民の自由や権利を侵さないように、その権力を制限しています。もう一つは、全ての国民の生活が成り立つように、福祉政策などを通じて国が人々の生活を下支えするよう義務づけています。

憲法は、このように国民が国家に対し、「~してはいけない」「~しなくてはいけない」と命じているルールで、政治を行う人は、憲法の理念を実現する使命を負っています。権力を持つ人に好き勝手をされては、必ず多くの人がひどい目に遭うという人類の歴史を教訓に、国民が国家権力に義務を課す「憲法」という仕組みがつくられました。

――普段の暮らしの中で、憲法を意識するのは難しいですね

一つ一つの法律は憲法を基にしてつくられていて、その意味では、私たちの生活は、憲法によって形づくられているわけですが、現在の生活が当たり前すぎて、なかなか意識できません。「日本国憲法22条があったから、好きな仕事に就けて良かった」と思う人はいないですよね。私たちの生活に憲法は大きく関わっているものの、意識しづらいという点では、「水や空気」に例えることができると思います。

例えば、「自分が住みたい所に住む」「関心のあることを自由に学ぶことができる」「就きたい仕事に就くことができる」といったことは、多くの人が当然の権利だと思っていますが、憲法で保障されているからこそ、自分の考えによって行動できるのです。

歴史を振り返れば、そうでなかった時代の方が長くありました。日本で「表現の自由」や「信教の自由」が完全に保障されたのもこの70年ほどのことで、戦前はそうではありません。現在、長時間労働が問題になっていますが、一定の働き方が定められ、利潤追求のためだけに企業が奔走しないようになっているのも、現憲法に「労働者の権利」が保障されているからです。

――「憲法改正」の議論を、私たちはどのような視点で見ていけばいいですか?

憲法は、「王様をしばる法」ですから、政治を行う人や国家権力への「しばり」をより強くする必要があるのであれば改憲は必要です。憲法の意義に照らして、しばりを弱くする必要はありませんから、「国家の権力を強める」、さらに「国が国民に義務を課す」といった内容の改憲案ならば注意が必要です。

日本国憲法は、国民が国家に義務を課す立憲主義に基づいており、全ての人の人権を尊重し、社会的弱者を支える仕組みをも備えています。現在考えられる憲法の原則や普遍的な原理はしっかり踏まえられていて、さらに先進的な平和主義も入っているので、施行から70年を経ても「古さ」は感じません。包括的な人権規定が備わっていますので、後世にも対応できる内容になっています。

一方、自民党から出されている「改正草案」は、王様のしばりが緩められるとともに、国家が国民に義務を課すような内容が盛り込まれています。立憲主義、国民主権、基本的人権の尊重が後退し、戦前の大日本帝国憲法に近いものになっています。「現憲法は時代遅れ」といった指摘がなされるわりには、内容は「古いものに戻す」という印象が否めません。

――国民に求められることは?

先ほど、憲法は、水や空気に例えられると言いましたが、水や空気に気を使わなければならない環境は、決して素晴らしいとは言えないですよね。憲法についても、意識しなくて済むのだったら、その方が良い時代なのかもしれません。

しかし、これまでの立憲主義や国民主権、平和主義を否定するような改正草案が出され、憲法改正が現実味を帯びている現状にあっては、最終的に責任を負うのは国民ですから、憲法について知らなければならない時を迎えていると思います。

憲法の大切さを知るには、憲法が私たちの日常生活のどこで生かされているかを知ることが重要です。

私たちは今、国家権力から手出しされずに、自由に生活できています。一方、政治を行う人は、全ての国民の生活が成り立つような政策を立てるよう義務を負わされています。こうした状況を当たり前だと考えずに、憲法がどのように日常生活や社会に生かされているかを知ってほしいと思うのです。

そして、憲法が改定されるということは、私たちの生活や将来の人々の人生に必ず影響があるわけですから、どのような変化がもたらされるのかと想像をめぐらせてみることが大事になります。

プロフィル

たねだ・かずとし 東京大学法学部卒業後、都内区役所に5年間勤務。成蹊大学法科大学院(夜間コース)を修了し、2010年に司法試験に合格した。第二東京弁護士会に登録。労働や借地借家などの問題を中心に日常業務を行う傍ら、社会活動として平和と法曹養成にかかわる問題に取り組む。「明日の自由を守る若手弁護士の会」で講師を務める。