SNSの時代に宗教はどうあるべきか カトリック教会でシンポジウム

インターネットが普及した現代の状況を説明する志立氏。各パネリストの発言に、来場者は真剣に耳を傾けた

これに対し、大衆に向けて同じ情報が流されていた時代と比べ、インターネットが普及した現代では、SNSを通じて一人ひとりに“パーソナライズ(個別最適化)”されたオリジナルの情報が送られるようになったと解説。「米大統領選」では、A候補陣営はSNSを通じて世論に働き掛けたが、Aの支持者には投票を促し、どちらに投票するかを迷っている有権者には相手のB候補者のネガティブ情報を送り、B候補の支持者には「投票に行く意味や必要がない」と伝達したという。

さらに、一方の陣営をおとしめる第三国の存在や、マスメディアが報じたがらない陣営のフェイクニュースをつくることにビジネスチャンスを見いだす者の出現によって大量のフェイクニュースがつくられたと語った。当時、フェイクニュースをつくる「トロール工場」は世界各地につくられたが、こうしたニュースに好感を持つと閲覧者のSNSのタイムラインには同種の情報しか流れなくなり、一つ一つの情報は疑わしいものであっても、大量に見ていると人は信じてしまい、その人を通じてさらに拡散されていったと詳述。「こうなると、人は真実は何かとは考えず、自分が触れている情報が真実と思ってしまう傾向が高くなる」とエコーチェンバー効果の危険性を述べた。

また、「イスラム過激派」については、最初にインターネットなどで不特定多数の人にメッセージを出し、それに反応した人に対して、リクルーターの専門員がSNSを通じて個別に接し、徐々に感化していく仕掛けを、研究の出展を明らかにしながら紹介した。目をつけられた対象者は「より良い社会をつくることに情熱を持つ人向け」「宗教に対する敬虔(けいけん)な人や信者向け」「性に執着を持つ男性向け」などにグループ分けされ、さらに対象者の性格や志向に応じて分類されて、それに応じたコミュニケーションが図られ、組織への取り込みが戦略的に行われたと語った。

これらを踏まえて志立氏は、世界では多くの人々が正しい真理に向き合いたいと思っているが、過激派やフェイクニュースの作り手が、真理を求めているそうした人々の動向に敏感で、「人・物・資本」を懸けてアプローチしようとしていると論述。本来真理を説く宗教には、戦略を持って人に当たる過激派や、金儲(もう)けのために情報を放つフェイクニュースの作り手を上回って、人々とコミュニケーションを取っていくことが求められるが、「それは想像以上に大変なこと」とも述べた。

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