「時代」の声を伝えて

「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(5) 文・黒古一夫(文芸評論家)

敗戦―占領

もう30年ほど前のことになる。大学の授業で「戦争文学」について取り上げた時のこと。1941(昭和16)年12月8日、日本がアメリカ・イギリスなどに宣戦布告して太平洋戦争が始まったことを告げ、1945年8月15日に、「ポツダム宣言」を受諾して満州事変(1931年)以来のアジア太平洋戦争(15年戦争)が終わったという話をすると、講義の最後で一人の学生が手を挙げ、「僕は、今日の授業で初めて日本がアメリカと戦争したことを知りました。それで、どちらの国が勝ったのでしょうか?」と質問されたことがある。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(3) 文・黒古一夫(文芸評論家)

戦争が終わって

1945年8月15日、日本がポツダム宣言を受諾し、戦争を終結することが全国民に発表された。これは、1894(明治27)年の日清戦争に始まり、日露戦争(1904・明治37年)、第一次世界大戦への参戦(1914・大正3年)、シベリア出兵(1918・大正7年)、山東出兵(第一次・第二次 1927~28・昭和2~3年)、満州事変(1931・昭和6年)、日中戦争(1937・昭和12年)、ノモンハン事件(1939・昭和14年)、太平洋戦争(1941・昭和16年)と50年以上の長きにわたって続いた「戦争の時代」が、ようやく終わったことを意味する。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(2) 文・黒古一夫(文芸評論家)

フクシマ後を予見する「ディストピア小説」

前回に引き続き、「現代」について言及しておきたいことがある。それは、未曽有の「好景気」が喧伝(けんでん)される現代に「暗い影」を投げかけているもう一つの要因についてである。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(1) 文・黒古一夫(文芸評論家)

文学(者)の役割と「時代・状況」との関わり

「『時代』の声を伝えて」という連載は、「1938(昭和13)年~1950(昭和25)年」以降、約10年ごとの戦後の時間を対象に、文字通り「時代の声」を代弁する企画である。つまり「時代を刻印する」文学作品の歴史的・芸術的意味を考察するという試みでもある。果たして「文学」はこの80年間どのような「声」を上げ続けてきたのか、読者の皆さまとご一緒に考えていけたら、と思っている。

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