バチカンから見た世界
バチカンから見た世界(177)文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
-「平和の神学」を説き続けるレオ14世(6)-
同じキリスト教でありながら、トランプ大統領やプーチン大統領を支える神が勝つのか、それとも、ローマ教皇レオ14世が他の諸教会と結束して説く神が勝つのか——という論争は、聖アウグスティヌスが、崩壊していく西ローマ帝国の例を挙げながら示した「地上の国」の論理だ。キリスト教徒は、世界史の中で既に実在し、「地上の国」と同時進行する、永久の愛の国である「神の国」に心と眼を向けて、地上を巡礼していかなければならない。世界史が、いずれかは、神による愛の業(わざ)である宇宙創造の秩序である平和と、その中における人間の救いに向けて収束されていくからだ。
バチカンから見た世界(176)文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
-「平和の神学」を説き続けるレオ14世(5)-
ローマ教皇レオ14世は、バチカンでさまざまなグループと謁見(えっけん)してスピーチする際、「あなたたちに平和がありますように」というあいさつで始めることが多くなった。復活したキリストが、彼の十字架上の死に戸惑い狼狽(ろうばい)している弟子たちに向かって発した最初の言葉で、そのうちにキリスト教の教えが凝縮されているからだ。「平和」は、神の愛による宇宙と人間の創造の業(わざ)によって定められた秩序といえる。だから、人間のみの力で世界平和を構築しようとする「神不在の世界平和」を強く糾弾する。世界平和は、まず「神からの恵み」なのだ。
バチカンから見た世界(175)文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
-「平和の神学」を説き続けるレオ14世(4)-
米国カトリック教会の枢機卿3人(ブレース・スーピッチ・シカゴ大司教、ロバート・マケロイ・ワシントンDC大司教、ジョセフ・トビン・ニューアーク大司教)は、トランプ政権の外交政策に「倫理規範」を要請し、教皇レオ14世が今年初頭、バチカン付け外交団に向けて行ったスピーチの中に、「ここ数年の米国による外交政策の道程を定めるための倫理的羅針盤がある」と主張していた。ローマ教皇レオ14世は1月19日、バチカン付外交団(184カ国)に向けて行った長文のスピーチの中で、聖アウレリウス・アウグスティヌス(354〜430)が体系化した宗教地政学と平和神学の大書『神の国』(426年、全22巻)について述べた。
バチカンから見た世界(174)文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
-「平和の神学」を説き続けるレオ14世(3)-
ローマ教皇レオ14世は2月8日、バチカン広場での日曜恒例の正午の祈りの機会に、「平和のために祈り続けよう。経済・軍事大国の戦略は、歴史が教えているように、人類に未来を与えない。未来は、尊重と諸国民間での友愛にある」とアピールした。
バチカンから見た世界(173) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
-「平和の神学」を説き続けるレオ14世(2)-
米国カトリック司教会議議長のポール・コークレイ大司教(オクラホマシティー)は1月12日、ホワイトハウスのオーバル・オフィス(大統領執務室)でトランプ大統領と懇談した。ホワイトハウスは、トランプ大統領が執務室にあるテーブルの椅子に座り、コークレイ大司教が彼の横に立っている写真を公開した。二人とも笑顔だった。
バチカンから見た世界(172) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
-「平和の神学」を説き続けるレオ14世(1)-
米国のカトリック司教会議が、米国とソビエト連邦(現・ロシア)間での冷戦と核戦争への恐怖が頂点に達した世界に向けて、『平和の挑戦——神の約束とわれわれの応え』と題する司牧書簡を公表し、核軍縮や軍拡の停止を訴えたのは1983年のことだった。この司牧書簡は、世界のカトリック教会のみならず、国内外の一般世論にも大きな影響を与え、89年のベルリンの壁崩壊へ向けて道を拓(ひら)くことに貢献した。
バチカンから見た世界(171) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
-国家イデオロギーとなった米国とロシアのキリスト教/教皇の説くキリスト教(4)-
「米国を救い、偉大にしていくために、神によって狙撃事件(昨年7月13日)から救われた」と、米国のトランプ大統領は信じている。キリスト教の神からの命令を受けて、米国の政権を担当しているとの発言だ。トランプ政権を支えるキリスト教徒である「福音主義者」(エヴァンジェリカル)たちは、トランプ大統領の選出をも含めて、「全てが神の見計らいによって起こる」と信じている。だが、彼を大統領として選んだ米国民は、彼と、彼を支えるキリスト教徒たちのそうした発言をどのように受け取っているのだろうか。
バチカンから見た世界(170) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
-国家イデオロギーとなった米国とロシアのキリスト教/教皇の説くキリスト教(3)-
米国のトランプ大統領は7月4日、同国の独立記念日に、自身の選挙公約を実現するための予算案「一つの大きく美しい法案」を強引に上下院で採択させた後、自身でも署名した。
バチカンから見た世界(169) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
-国家イデオロギーとなった米国とロシアのキリスト教/教皇の説くキリスト教(2)-
米国のトランプ大統領は6月25日、オランダのハーグで開かれていた北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議で、NATOのマルク・ルッテ事務総長と共に記者会見に応じ、米軍によるイランの核施設に対する攻撃を、「あの攻撃が戦争を終結させた。広島や長崎をたとえにしたくないが、本質的には同じだ」と正当化した。80年前に米国によって広島、長崎に投下された原爆の傷はいまだ癒えず、人類を核兵器の恐怖と自滅の淵に直面させている現状況を無視しての、トランプ大統領の発言だった。
バチカンから見た世界(168) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
-国家イデオロギーとなった米国とロシアのキリスト教/教皇の説くキリスト教(1)-
ローマ教皇レオ14世は6月9日、120を超える国々からバチカンに参集したローマ教皇庁宣教事業部(POM)総会の参加者たちに向かい、キリストが弟子たちに直接になした問い、「人々の間で、人の子(人間となったキリスト)を何者だと思っているのか」(マテオによる福音書16章13節)を突き付けた。人間の救いと、キリスト教のみならず、世界諸宗教の存在理由に共通する問いだった。「人の救いは、人となり十字架上で亡くなったキリストのみ」にあり、その「キリスト」を国家イデオロギーとなったキリスト教で置き換えてはならない、との警告としても受け取れる問いなのだ。世界で民主主義が後退し、独裁政権、君主国家、強権政治へ向けた兆候が強まる中、政権を支える国家イデオロギーとなったキリスト教、ユダヤ教、ヒンドゥー教が台頭してきているからだ。


