神によって創造された素晴らしき人間性によるAI管理を/教皇回勅(海外通信・バチカン支局)

人工知能(AI)は国際法による制御や規制、枠組もなく、国政レベルでの法的対応も定かではないまま、急速な発展を遂げ、いまや人間生活のあらゆる分野に侵入し、行動形態の変革を迫っている。5月14、15日に北京で開催された米中首脳会談では、中心テーマの一つともされた。「中国外務省は19日、米中両首脳が先週の会談で、人工知能(AI)について政府間対話を実施することで合意したと明らかにした」(19日付「47NEWS」電子版)。(テロ組織などによる)AIの悪用、予測できずに制御不能となった場合の対処、特に軍事利用に関し、いまだ何の国際合意も成立していない。ましてや、AIの使用に関する倫理規範は、世界諸宗教界でも見当たらない。

バチカン国連常駐代表(ニューヨーク)のガブリエレ・カッチャ大司教 (現在は米国教皇大使)は昨年の10月21日、国連総会第1委員会(核軍縮)で演説し、「核兵器の使用、管理、配備などにAIを導入することは、前例のない不安を助長する」と警告した。AIの導入が、「判断の時間を短縮し、人間による統制を減少させ、計算違いの可能性を増長するのみならず、人間の不安をかつてないほどのレベルにまで引き上げていく」からだ。日本の岸田文雄元首相も、「核使用『AIに委ねるな』」(5月21日付「毎日新聞」電子版)と警告している。さらに、22日付同紙(電子版)の報道によれば、米国のトランプ大統領は21日、「AI業界に対する政府の監督権限強化」「高度なAIモデルが公開される最大90日前から連邦政府による自主的な審査の実施」「銀行や病院など社会・経済に不可欠な分野が持つネットワークで防御の強化」などを目的とする「AIに関する大統領令」に署名する予定だったが、AIを巡る覇権争いで米国が中国や世界をリードしており、「そのリードを阻むようなことはしたくない」との理由で、署名を見送ったとのことだ。

AIの規制論議が沸騰し、各国が、その対処策を模索するという世界状況にあって、16日に「AIに関する諸機関間合同委員会」の設置を明らかにしていたバチカンは、25日に市国内のシノドスホールでの記者会見で、ローマ教皇レオ14世による最初の社会回勅、「AI時代における人間性の保全」(「Magnifica Humanitas(マニフィカ・フマニタス)」/ラテン語で「素晴らしき人間性」)が公布されると発表した。記者会見には、教皇自身も出席し、スピーチしたが、バチカンのピエトロ・パロリン国務省長官、ビクトル・マヌエル・フェルナンデス教理省長官、マイケル・チェルニー総合的人間開発省長官らと共に、生成AIを手がける米国の新興企業「アンソロピック社」の共同創設者であるクリストファー・オラー氏の姿があった。アンソロピック社は、自社のAI技術が軍事目的や市民の大規模な監視のために使われることを、倫理的な視点から拒否しており、トランプ政権との対立を鮮明にしている。トランプ大統領によって「急進左派企業」と断定されたアンソロピック社は、「全権を行使して国防総省(戦争省)と協力するように従わせる」とも脅かされている。国防総省は、倫理的制限のない同社のAI技術の利用権限を要求しているのだ。また、世界のAI技術界に大きな波紋を巻き起こしつつある、最新モデルの「クロード・ミュトス」は、アンソロピック社が開発したものだ。人間では不可能であった、コンピューター・システムの弱点を自力で短時間の内に見いだす高性能は、サイバー攻撃に利用される危険性もあるのだ。日本政府は18日、AIミュトスの悪用を想定し、その対処のための初会合を開いた。

「神によって創造された、素晴らしき人間性は今日、決定的な選択を迫られている」との一節で始まる教皇回勅は、人類に対し「新しいバベルの塔を築き上げるのか、それとも、神と人間性が共存する都市を構築していくのか」と問い質(ただ)している。「バベルの塔」は、旧約聖書の逸話に出てくる、自身の能力を過信した人間が「神に届こう」(神への挑戦)として、当時の最新建築技術を使って建立を企画した塔のこと。結局は、人類が統一言語を失い、さまざまな言語を話さざるを得なくなるという、神からの処罰を受け、混乱した状況に陥り、塔の建立は諦められた。AI技術の発展によって、神を技術万能主義によって置き換えていこうとする、人類が持つ、新たな「神への挑戦」という夢に対する警鐘で、教皇のAI回勅は始まる。「神によって創造された、素晴らしき人間性」によってAIが管理され、「人類が自身の面影を失う危険性に晒(さら)されているところにあって、私たちキリスト教徒は、人となられた神に目を向けていく」と表明する。

教皇のAI回勅は、巻頭言と五つの章、結論で構成される。第1章では、「福音に忠実なダイナミックな思考」と題して、「カトリック教会の社会理念が、歴史的な視点から説かれ」、第2章では、「教会の社会教説の基礎および原則」について説明されている。「技術と統治/AIがもたらす可能性を前にした人間の偉大さ」と題する第3章では、「技術発展が急速に、言語、関係、制度、権力の構図を変えていく時にあって、われわれ信仰者は、われわれに与えられた素晴らしき人間性を保全、評価していくために、どのようなプロジェクトを、どのような様式で遂行するか、その選択を可能とし、推進していかなければならない」と記されている。

「変革の中で人類を守る/真理、労働、自由」を扱う第4章では、「デジタル変革が、共通善としての真理の再発見と、労働の尊厳性を擁護するのみならず、あらゆる隷属性と商品化から自由を保全していくことを要請する」と主張されている。第5章「力の文化と愛の文明」では、「デジタル革命が紛争の文法(基本規則)を変えつつある」問題が分析されている。「普通となった戦争」「際限のない(軍事)力」「兵器とAI」「多国間主義の危機」「虚偽の政治的現実主義」などの問題だ。

AI回勅の結論の中で教皇は、聖母マリアの「Magnificat(マニフィカト)」に言及している。神の人類救済に関する、神秘に満ちた見計らいを賛美した、キリストの母からの感謝の言葉だった。「Magnifica」とのタイトルを持つ、教皇のAI回勅は、最後に、「福音に信頼」し、「神の住まわれる(神によって創造された)、素晴らしき人間性の美しさを証(あかし)しよう」と呼びかけている。AIの管理、使用も、その枠内で進行されていかなければならない、との意志だ。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)