「トランプ大統領の平和評議会は“個人クラブ”か」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

トランプ大統領の平和評議会は“個人クラブ”か
米国のトランプ大統領は1月7日、66の国連組織や国際機関などから脱退を指示する大統領令に署名した。国連のグテーレス事務総長は26日、国連安全保障理事会が開いた「法治」に関する公開討論で演説し、世界各地で「露骨な国際法違反が行われている」「法の支配がジャングルの掟(おきて)に置き換えられつつある」と警鐘を鳴らした。27日付の「47NEWS」は、グテーレス氏は法の支配が第三次世界大戦の回避に貢献してきたと指摘し、安保理の常任理事国 は国際法の遵守(じゅんしゅ)において「模範を示す特別な責任を負っている」と訴えたと報じている。
同事務総長による憂慮に満ちた発言に先立つ22日には、スイス東部ダボスで、トランプ大統領が主導して「世界の紛争解決」を目指す「平和評議会」の設立式典が挙行された。当初は、ガザ和平の第2段階における暫定統治機関として設立される方針だったが、トランプ大統領は、「われわれが国連と連携すれば世界で極めて独特な存在となり得る」(22日付「47NEWS」)と述べ、評議会の活動を世界に向けて広げていく意向を表明した。
トランプ政権が草案した設立憲章は、トランプ大統領を(米大統領任期以降も)拒否権行使のできる唯一の終身議長と定め、意思決定に議長の承認を要するなど、彼に絶対的な権限を与えている。トランプ大統領は22日、自身のSNSで、カナダの評議会への参加要請を撤回したと発信。カナダのカーニー首相がダボスで開かれていた「世界経済フォーラム」の中で「世界秩序の断絶」「(平和評議会の)統治のあり方や意思決定過程に改善すべき点がある」などと発言したことを受け、議長としてのワンマンぶりを早速、発揮したのだ。
評議会の設立式典には、カタール、サウジアラビア、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、インドネシア、パキスタン、アルゼンチン、パラグアイ、ヨルダン、アルメニア、アゼルバイジャンなど、約20カ国の首脳らが参加した。トランプ大統領は、出席した首脳らを「皆、私の友達」と紹介したが、君主制や権威・強権主義の国家が多く、民主主義国家、米国を除く国連安保理の常任理事国、主要7カ国(G7)の首脳の姿はなかった。欧州連合(EU)から参加したハンガリーは、国粋主義を強くする政権であり、「欧州愛国者グループ」を構成している。ブルガリアは、トランプ政権と友好な関係を保持したいとの意向を持って参加したが、内政が混乱しており、評議会への参加が議会を通過できるかどうかは不透明のようだ。
トランプ大統領は、中国、ロシア、イスラエルにも参加要請をしている。コスタ欧州理事会議長は、「国連憲章との整合性のほか対象範囲や運営方法に深刻な疑念がある」と述べ、距離を置く考えを示した(23日付「47NEWS」)。バチカンに対しても参加要請がなされ、教皇宛てに書状が届いているが、バチカン国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿は28日、バチカン報道関係者たちの質問に応え、「平和評議会に関して参加するかどうかの決断を下す前に、考慮しなければならない“危機的(Critical)”な要素がいくつかあり、(米国政府に)問い合わせているが、いまだ返事がない。評議会の有する危機的な要素を忘れてはならない」と明かした。
危機的な要素とは、コスタ同議長の表明した「深刻な疑念」に相通ずるものだろう。アジアのカトリック通信社である「UCAニュース」は28日、「トランプ大統領の平和評議会とは何か? 誰が利益を得るのか?」と題する論説記事を掲げ、平和評議会にまつわる四つの疑問を提示している。それらは、真摯(しんし)に世界平和を追求する諸宗教者や善意の人々が抱く懐疑に共通するものだ。
第一の疑問は、トランプ大統領が、どのような権限で平和評議会を創設し、参加国を決めたのかだ。「ドナルド・トランプ氏が、自身の権威によって、自身に創設を命じたのでは?」「議長の有する終身制や拒否権が、自身の経済的利益を擁護、促進するためではないのか?」と同ニュースは伝えている。
二つ目は資金に関するものだ。一国が加盟国となるために10億米ドル(約1600億円)を支払う必要性や、誰が会費額を決めたのか、集めた資金の保管先や使途、10億米ドルを払えない貧困国や開発途上国が加盟できる可能性の有無を指摘している。同ニュースは論説の中で触れていないが、47NEWSは19日、国際NGOのオックスファムが、トランプ政権による富裕層優遇策などにより、2025年に世界で富と権力の集中が加速したとする報告書を発表し、「超富裕層の資産や影響力が民主主義や人権を脅かしていると警鐘を鳴らした」と報じた。
疑問の三つ目は、敵と想定した国家を屈服させ、何十万人という無実の市民を苦しめ、殺傷することを平和と信じているロシアのプーチン大統領やイスラエルのネタニヤフ首相を含む機関を「平和評議会」と呼べるのか、というものだ。最後は、同評議会の決定事項を遂行していく「執行部」のメンバーについて、一人を除く全員が米国人であることを指摘し、世界平和を目指す機関に多様な地域からの代表者は必要ないのか、と不信感を表している。そして、同ニュースは今回の評議会を、「世界で最も裕福で最強の軍事力を有する国が、自国の有する世界秩序に関する理解を他国に強要し、その新しい世界秩序の中で“米国を再び偉大にしていく(Make America Great Again)”ことのように見える」と結論づけた。「UCAニュース」は記していないが、トランプ大統領は、米国を中心とする世界秩序の構築にとって、国連が障害になると考えているのだ。
世界教会協議会(WCC)のジェリー・ピレー総幹事が23日に公表した声明文は、平和評議会の憲章が設立の正当性を主張するために国連憲章や国際法に言及しているが、「その構造と政治的枠組みは、国連憲章に沿って構築されたシステム、特に、安保理の権威と、その中心的役割を侵食する」と批判。トランプ大統領のイニシアチブが、国連安保理を避けて通る「バイパス」、あるいは「対抗機関」としての役割を果たす可能性があるとも指摘し、参加国の選定や決断能力が一個人に集中していることなどを挙げ、「世界平和が10億米ドルで売却された」と糾弾している。平和評議会憲章に記されたワンマン体制と、各国の平等性、集団意思決定を至上とする国連憲章は相いれないのだ。
WCCは、国連が現時点で創設当時の精神を基として、世界の状況に適切な対処をしているとは言えないが、この問題の解決は、平和評議会創設によってではなく、国連憲章第109条に沿い、同憲章の改訂と補足をしていくための総会を招集することで可能だと主張している。
イタリアの政治関係者、国際問題担当者、報道関係者の間で信頼性を高めつつある民間シンクタンク「国際政治研究所」(ISPI)は22日、報告書を発表し、トランプ大統領の平和評議会に対して「プライベートなクラブ」との判断を下した。「伝統的な多国間組織ではなく、排他的(Exclusive=富裕層の意もある)なクラブの色彩が強い」という評価だ。さらに、「国連が米国の国益、安全保障、経済的繁栄、主権に反する行動をしている」とするトランプ大統領の発言を指摘し、ウクライナ戦争の解決やグリーンランドの領有権問題に関して米国と対立するEUにとって、平和評議会の構造と管理政策が、北大西洋条約機構(NATO)に対する最終的な打撃を意味している、との見方を示した。
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