バチカンとウクライナ/ロシアに戦争捕虜の解放を求めて(海外通信・バチカン支局)

ウクライナのイリナ・ヴェレシュチュク副首相はこのほど、ロシアで戦争捕虜となっているウクライナ兵士の女性家族30人と共にローマを訪問し、バチカンの「ウクライナ人道問題特使」であるマテオ・ズッピ枢機卿(イタリア司教会議議長)と懇談した。

ズッピ枢機卿は、前教皇フランシスコによって「ウクライナ和平に関する教皇特使」に任命され、ウクライナ、ロシア、米国、中国を訪問し、人道的な視点から「和平に向けた雰囲気づくり」に努力してきた人物だ。ウクライナ副首相とバチカン人道特使との懇談について報じる「SIR」(イタリア・カトリック司教会議通信社/9月20日)は、その懇談に「ロシアの駐バチカン大使であるアンドゥリー・ユーラッシュ大使も参加した」と伝えている。

ウクライナ使節団は、ズッピ枢機卿に「ロシアで捕虜となっているウクライナ兵士のリストを手渡し、彼らの釈放のためにバチカンの介入を要請すると同時に、彼らの家族の苦しみと不安を伝えた」という。同副首相は、ウクライナ戦争の勃発当時から、「戦争捕虜の交換問題」を担当しており、「人道問題に関するバチカンによる介入の重要性」を評価するとともに、「ロシアによって拉致されていた子どもたち、捕虜となっていた市民、兵士たちの帰国を最初に見た時の感動」を追憶した。

さらに、同副首相は、ローマ教皇レオ14世を「希望と慈しみの教皇」と呼び、教皇のウクライナ招待を希望し、「教皇の和平アピールとそのための努力」に対する感謝を表明。「(教皇は)ウクライナ戦争には攻撃した者(ロシア)と攻撃された者(ウクライナ)がおり、攻撃された者が支援され、戦争が停止されなければならないことを示してくださる」との確信を表明している。また、教皇が、「希望を説く指導者であり、苦しむ人々に寄り添い、慈しみが何であるかを示している」とも指摘した。

ゼレンスキー大統領とプーチン大統領による首脳会談の可能性について聞かれた同副首相は、「ゼレンスキー大統領は、和平を促進するあらゆる国の指導者と会うが、われわれの領土と市民を間断なく爆撃するロシアに行くことはできない。ウクライナ国民は、彼の政策を支持している。ウクライナは、和平折衝には“Yes”と言うが、降伏には“No”と言う。これに関し、大統領は絶対に譲らない。ウクライナは、自身の自由を維持するために苦しみ、自身の命を犠牲にする数百万人の国民で構成されている国家なのだ」と言明した。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)