「良くなったり悪くなったり——教皇の肺炎」(海外通信・バチカン支局)

バチカン広場や聖ペテロ大聖堂では毎晩、バチカンの高官枢機卿の司式で「ロザリオの祈り」が執り行われ、肺炎のためにローマのカトリック総合病院「ジェメッリ」に入院しているローマ教皇フランシスコの回復を多くの信徒が祈っている。病院の内庭にあるローマ教皇ヨハネ・パウロ二世の銅像の下でも、信徒たちが集まり、ロザリオの祈りを復唱する。

教皇の故国アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの憲法広場では2月24日、同市のガルシア・クエバラ大司教が、「教皇さん、私たちは、あなたを大変に必要としています」と呼びかけながら、教皇回復のためのミサを司式し、数千人の信徒たちと共に司教、神父、政界や市民社会の代表者たちが列席した。クエバラ大司教は、ミサ中の説教で「この私たちの祈りが、教皇の肺が必要としている酸素となるように」と願った。憲法広場は、教皇がブエノスアイレスの大司教を務めていた頃、当時の政界の腐敗、人身売買、麻薬の流通を糾弾し、国の危機的な状況を市民に訴えた場所だ。教皇の回復を祈るミサ、ロザリオの祈りや集会は、バチカン、故国のアルゼンチン、中南米だけでなく、世界のカトリック教会で展開されており、教皇は、各国から伝えられる「連帯のメッセージ」に謝意を表している。

世界教会協議会(WCC)のジェリー・ピレー総幹事は25日、WCCというエキュメニカル(キリスト教の教会一致)な世界組織に属する全てのキリスト教者を代表し、「教皇の速やかなる回復と、その後の健康を実直に祈る」との声明文を明らかにした。さらに「私たちは、主なる神が、私たちの苦しみと病気の時にも近く在られ、神の手中にあれば安全であり、常に世界とその苦しみを癒やすために作動されていることを知っている」と呼びかけ、「あなたが、この困難な日々に、神の慈しみのこもった臨在を体験されるように祈る」と表明した。

教皇は、自身の病棟の窓から顔を出し、病院の内庭に集まった信徒たちと日曜恒例の正午の祈りを行うことを、医師から禁じられている。3月2日には、病室で認(したた)めたスピーチのみを公表した。その終わりの部分で、教皇は「兄弟姉妹の皆さん、この思い(正午の祈りのテーマ)を病院から送ります」と呼びかけ、治療に当たる医師や医療関係者たちに感謝を表しながら、「人間の弱さの内に秘められている(神からの)“祝福”を心の中で感じている」と吐露した。「この時にこそ、より神を信頼することを学ぶ」からだと言う。同時に、「身体と霊を通して、多くの病人や苦しむ人々の条件を分かち合うことができる。そのことを神に感謝する」とも述べた。そして、「世界の多くの地域で、多くの信徒たちの心から(私の回復のために)主なる神に向かって湧き上がる祈り」に感謝した。さらには、「病院から見た戦争は、より不条理に思える」とも記している。このスピーチの公表が、闘病生活を送りながらも、最低限の日常業務を遂行できる、教皇の病状を示す。教皇のみに可能である各国の司教の任命も、毎日、公表されている。

バチカン記者室が2月26日に公表した教皇の病状に関するレポートは、「ここ24時間のうちに教皇の容態がわずかながらも良くなり」「血液検査の結果も改善され」「肺の炎症像も正常なる経過を示している」と伝えた。特に、レポートから「危機的」という表現がなくなった。酸素の投与は継続された。27日にも、「病状の改善」が報告されたが、28日には「嘔吐(おうと)を伴った単発性の気管支痙攣(けいれん)の発作」を起こし、「気管支吸引」を必要とする症状に陥った。人工呼吸によって状況は改善したが、気管支痙攣が病状全体に及ぼす影響を知るには24時間から48時間が必要との判断が下された。

3月1日のレポートは、「病状は安定し」「気管支痙攣の症状は再発しなかった」と報告。2日のレポートも、「今日の病状も安定しており」「熱もなく」「人工呼吸器を必要とせず」「高流量酸素投与を受けている」と記している。しかし、病状はいまだ複雑であり、予後の判断は保留されている。教皇は、病院関係者たちとミサにあずかり、休息と祈りの日曜日を過ごした。

翌3日、教皇は2回にわたり「急性の呼吸困難」に襲われた。気管支にかなりの量の痰が詰まり、痙攣を再発。痰の吸引と気管支の視鏡検査が行われた。午後には、人工呼吸を再開。教皇の意識はしっかりとしており、治療に応じた。バチカン記者室は4日朝、「教皇は一晩中眠り、今も休息している」と伝えた。酸素吸入マスクが外され、鼻カニューレによる高量酸素の投与に切り替えられたとのことだ。同日のレポートは、教皇の病状は安定し、「呼吸困難や気管支の痙攣といった症状は再発しなかった」と記している。熱はなく、意識もしっかりとしており、治療にも協力的だ。夜は酸素吸入マスクを着けて眠り、「祈りと休息」のうちに一日を過ごした。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)