「分断を抱えたままトランプ政権がスタート」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

分断を抱えたままトランプ政権がスタート

ローマ教皇フランシスコは1月20日、第47代米国大統領に就任するドナルド・トランプ氏に宛てて「友好のあいさつを送るとともに、全能の神が、あなたの高貴なる責務の遂行に対して、叡智(えいち)、強さとご加護を与えてくださるように祈る」とのメッセージを送付した。

教皇は、「『全ての人にとっての機会と受け入れの土地』という、あなたの国家の理想からインスピレーションを受け、あなたのリーダーシップのもとで、米国民が繁栄を享受し、憎悪、差別、排除の介入を許さない、より正義に適(かな)った社会の構築に努力することを願う」と述べ、「同時に、われわれ人類家族が、戦争という災いをも含めて、多くの困難に直面している時に、神があなたを、諸国民間の平和と和解を促進する努力に導いてくださるように」とも祈った。教皇の指摘する「米国国家の理想」とは、同国の近代史において、全ての移民者に均等の機会を与え、受け入れてきた「パイオニア精神」のことであり、間接的にトランプ大統領の標榜(ひょうぼう)する「不法移民の大量送還」を批判するものだ。「憎悪、差別、排除」と「より正義に適った社会の構築」という表現も、米国における白人至上主義(人種差別)の問題以外に、不法移民の問題にも抵触してくる。

19日、トランプ氏の大統領就任式の前日に、教皇はイタリアの人気テレビ番組のインタビューに応じ、その中で「トランプ大統領の主張する不法移民の大量送還」について尋ねられ、「もし、それが本当なら、世界経済の歪(ひず)みに対して何の責任も持たない、貧しく、虐げられている人々に代償を払わせることになる。災難であり、ダメな政策だ。そんな方法では、問題を解決できない」と非難した。第1期のトランプ政権が誕生した時にも、メキシコとの国境に壁を構築して不法移民の流入を阻止しようとしたことに対し、教皇は「壁を構築する者は、キリスト教徒ではない」と糾弾していた。今回の大統領選挙で、トランプ氏に投票した多数の信徒を有する米国カトリック司教協議会も、メキシコとの国境に軍隊を派遣して不法移民の流入を阻止し、国内にいる数百万人の不法移民を国外追放するというトランプ政権の公約を、「間違った危険な政策」と批判した。そればかりか、同司教協議会の会長と米軍大司教区大司教を務めるティモシー・ブロリオ師が公表した声明文は、「移民、難民に対する措置のみならず、国際援助(の凍結)、死刑執行範囲の拡大、環境問題への対処などに関する大統領令は、深い憂慮とネガティブな効果をもたらし、私たちの間にいる、より傷つきやすい人々を害する危険性を含んでいる」と警告している。メキシコとの国境線上にあるエルパソのマーク・サイツ司教(司教協議会の移民委員会委員長)の口調は、さらに厳しい。「私たちはカトリック教会の司牧者(指導者)として、不正義を容認することはできず、道徳法に反する結果を生み出す政策を正当化しないと強調する。全ての不法移民が“犯罪者”や“侵略者”であるといった、特定グループをおとしめる過激な風潮によって、彼らへの法的な保護を剝奪することは、私たちを創造された神に対する攻撃である」のだという。

しかし、米国議会の下院は22日、「滞在許可を有せず、窃盗、警官に対する暴力行為、飲酒運転による死亡事故などの犯罪に問われた不法移民を、国外追放するまで(強制)収容所で監禁する」(Laken Riley Act)との法案を可決した。第2期トランプ政権が成立してから、下院が可決した最初の法案だった。また、ホワイトハウスの報道官は24日、米国が538人の不法移民を逮捕し、数百人を国外追放したと公表した。

トランプ大統領は21日、首都ワシントンの聖公会大聖堂で大統領就任の際に執り行われる「国家のための祈りの儀式」に参加した。同礼拝を司式したマリアン・バッド主教は、説教の中で「米国を再び偉大とするために、神によって私の命が(狙撃から)救われた」と、トランプ大統領が就任演説で発言していたことを指摘しながら、同大統領に面と向かって「私たちの神の名によって、私たちの国で今、おびえている人々に対しての慈悲を示してください」と要請した。「米国でおびえている人々」とは、トランプ大統領が署名した、性別を「男女」に限定して性的少数派を認めない大統領令におびえる同性愛者、トランスジェンダーや、大量送還の対象となる不法移民だ。「米国市民でもなく、適切なる証明書を有していないながらも、大多数の移民は、(ポピュリスト=大衆主義者=が主張するように)犯罪者ではなく、税金を払い、良き隣人でもある。さらに、彼らは、キリスト教会、モスク(イスラーム礼拝所)、シナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)、グルドワラ(シーク教の礼拝所)、仏教寺院の敬虔(けいけん)なるメンバーでもある」とも主張した。

トランプ大統領は、自身のソーシャルメディアのアカウントを通し、バッド主教を「極左翼過激派のトランプ憎悪者」と呼び、「彼女は、自身の教会を無作法な方法で政治の世界へと介入させた。彼女の口調は、非礼であり、説得力もなければ、知的でもなかった」と憤まんを表明し、同主教からの謝罪を要求した。トランプ大統領が、極限的な形で真っ二つに分断された米国社会から選出された事実を、明確に見せた礼拝式典だった。

「メキシコ湾」を「アメリカ湾」に改名したトランプ大統領は、北米の最高峰である「デナリ山」(標高6190メートル)の名称を、元の呼称であった「マッキンリー山」に戻す大統領令にも署名した。1917年に米国の第25代大統領であったウィリアム・マッキンリー氏の功績を讃(たた)えるために命名された同山であったが、1970年代からアラスカの先住民が「同山は、私たちの土地の霊的・文化的伝統を象徴する山であり、現地語の“デナリ山”(最高峰)に改名されるべきだ」と主張する運動を起こし、2015年にオバマ政権が先住民の主張を認めた経緯がある。トランプ大統領が同山の改名にこだわるのは、マッキンリー大統領が、彼と同じように、高関税を課すことによって国内産業を保護する政策を施行したからだ。だが、アラスカの先住民と同州から選出された議員たちが、改名の大統領令に反対の声を上げた。リザ・ムルコフスキー上院議員は、「トランプ大統領のデナリ山に関する決断に、強く反対する。米国の最高峰は、数千年前からデナリ山と呼ばれてきており、遠い昔からアラスカの土地に住んできた先住民が冠した正当なる名前で呼び続けられるべきだ」とソーシャルメディアに投稿した。

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