第41回庭野平和賞贈呈式 庭野日鑛名誉会長挨拶
5月14日に東京・港区の国際文化会館で行われた「第41回庭野平和賞」贈呈式(主催=公益財団法人庭野平和財団)の席上、庭野日鑛名誉会長が挨拶に立った。要旨を紹介する。(文責在編集部)
「赦しと和解」の精神 あらゆる宗教に通じる普遍的価値観
モハメド・アブニマー博士は、人々が民族的、国家的、宗教的な隔たりによって暴力の連鎖、怨(うら)みの連鎖に巻き込まれていく現実を変えるため、今日まで心血を注いでこられました。博士は、紛争解決と平和構築の研究者であると同時に、実際の調停にも取り組まれています。また、諸宗教対話の積極的な推進者であり、次世代に対立を超えた共生の道を示す教育者でもございます。
そのような多様な取り組みの根底をなすのは、イスラームの教えから導き出された「赦(ゆる)しと和解」の精神であると伺っております。博士は、「赦しと和解」の教えこそが、本来のイスラームの平和観であることを明確に示され、その確信をもとに具体的な活動を進められています。
私は、この「赦しと和解」の精神は、あらゆる宗教に共通する、重要な、普遍的な価値観であると受けとめています。法句経(ほっくぎょう)に、「怨みは怨みによって報いれば、ついに消えることはない。怨みを捨てるとき、それが消えるのである」という言葉があります。この教えには、古くから伝承されてきた物語があり、戦いを繰り返し、憎しみ合った者たちにも、やがては心の通い合う日が来ることを象徴的に表しています。
博士が示されるように、イスラームには、「赦しと和解」の教えがあります。キリスト教徒の方々は、「愛」に生きることを大事にされています。私ども仏教徒は、「慈悲」にあふれた世界を目指して精進しています。このように、さまざまな宗教の根底には、共通する普遍の真理、真実の道理があり、本質的には一つの道を歩んでいるのだと私は信じています。
紛争の続く地域に、たとえ恒久的な停戦合意がなされたとしても、人々の心に怒りや怨みの心がくすぶる限り、いつまた争いの種に火がつくか分かりません。「赦す心」「愛の心」「慈悲の心」を中心にした働きこそが、この世を平和に導く根源の力となっていくのではないでしょうか。
昨年10月以降、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラーム過激派組織ハマスの戦闘が続いています。イスラエルで生まれ育った博士の悲しみは、どれほど深く、重いものでしょう。そのような時であるからこそ、博士の経験や知見をより多くの人々にお伝え頂き、共に生きる世界に向け、一層のリーダーシップを発揮してくださることを念願してやみません。