第41回庭野平和賞贈呈式 モハメド・アブニマー博士受賞記念講演 

モハメド・アブニマー博士

5月14日に東京・港区の国際文化会館で行われた「第41回庭野平和賞」贈呈式(主催=公益財団法人庭野平和財団)の席上、受賞者のモハメド・アブニマー博士が記念講演を行った。要旨を紹介する。(文責在編集部)

人々の連帯が、希望と正義を見いだす

一部の政治家や宗教者による宗教のアイデンティティーやシンボルの悪用が常態化し、戦争や他者への暴力が正当化されている世界の現実に立ち向かうには、諸宗教間対話による平和と正義の支援が必要です。

信仰による平和と正義の実現は容易ではありませんが、私たちが平和構築という自らの使命を引き受けることで、世界の状況に効果的に立ち向かえるのです。

真の平和に向けて私たちがとるべき道は、公平性、共感、相互の苦痛やニーズの理解といった基本的かつ共通の価値観に立ち返ることです。こうした和解のための基本原則を、教育、メディア、芸術、その他全ての文化的・政治的諸機関に取り入れることは、さらなる構造的・社会的暴力の防止に向けた重要な一歩となります。それは、地域に、それぞれの国に、そして世界に平和の文化を築く礎となるのです。

近年のパレスチナ自治区ガザおよびヨルダン川西岸におけるイスラエル軍と入植者による大量殺戮(さつりく)・集団虐殺行為に対し、私は抗議の声を上げなければなりません。

また、昨年10月7日に起きたイスラエルのユダヤ人市民に対する殺害行為に反対し、失われた命に心を寄せています。私は、いかなる人々も人質として拘束することに反対します。

今回の軍事衝突から分かったことは、世界、特に欧米の軍需産業が及ぼす影響とその力の巨大さです。また、アラブ人やパレスチナ人への人種差別、イスラームに対する恐怖感が、世界中に深く広く浸透していることも明らかになりました。

この半年間、多くの平和活動家と同じく苦闘する中で、私は世界の人々が“戦争を止めたい”と願いながらも、政治家を説得することも、政策決定者の介入を促すこともできずにいる痛み、無力感、絶望感をわが身に感じてきました。

一方で、この武力衝突は、パレスチナの正義のために世界が連帯する意義を理解し、その一翼を担った諸宗教の、多くの平和の創造者に向けて、希望と回復の精神をもたらすものでもありました。

毎週、世界中で何百万もの人が路上で抗議活動に取り組み、勇気ある宗教指導者や信徒たちも、正義と即時停戦を訴えました。ソーシャルメディアを通して、数十億もの連帯のメッセージと画像が発信されました。私たちは、人間を擁護する言葉や画像が、人間の創造力によって生み出される様子を目撃したのです。

この創造性に満ちた抗議の波と連帯を目の前にして、私たちには共通の人間性を取り戻そうと意を新たにする能力が具(そな)わっていると再確認しました。たとえ小さな行動であっても、積み重ねることで援助や共感を必要とする人々の生活に、大きな力を提供できるのです。

昨年10月以降、宗教間の対話・協力を進める諸機関は、外圧に屈せず自らの立場を守り続けました。そのことが、パレスチナ人、全ての先住民、抑圧と不正義を経験するあらゆる人々の胸にあった平和への希望、そして自由と尊厳への希望を再燃させたのです。こうした諸機関への賛辞を忘れてはなりません。

気概を新たに、今後も諸宗教間・国家間の分断を超え、平和構築活動の継続と発展に尽力してまいります。