「人道に対する罪」に関する国際法制定を――バチカン国連常駐代表(海外通信・バチカン支局)

昨年9月からニューヨークで開催中の第78回国連総会で、ウクライナ侵攻やガザ紛争での戦争犯罪や人道に対する罪といった人権侵害の疑いが強い状況を背景に、「人道に対する罪の予防と処罰」に関する国際法の草案が検討されている。

同総会第6委員会(法律)でスピーチした、バチカン国連常駐代表(ニューヨーク)のガブリエル・カッチャ大司教は、「国際犯罪としての人道に対する罪に関し、慣習法として存在する制度を、普遍的、多角的、法的に拘束力のある手段として法制度化する必要性」について改めて表明。国際法制定によって、「この残忍な犯罪の予防と処罰に関する国際協力が促進できる」と主張した。バチカンの公式ニュースサイトである「バチカンニュース」が4月2日、伝えた。

カッチャ大司教はさらに、この国際法が「国際社会による共通善(公共の利益)の実現を推進していく」と指摘。法制度化にあたっては、「人間(生命)の誕生から死に至るまでを考慮して制定されなければならない」と注意を促した。

そのため、人道に対する罪の予防と処罰に関する国際法の前文には、「人間の尊厳性」についての条項を明記する必要性を主張。「人間の尊厳性の尊重、共通善の促進が、人道に対する罪が犯されないための道徳的義務と結びつけば、一国家が、国の至上利益を理由に犯した人道に対する罪を正当化できなくなる」と呼びかけた。さらに、人道に対する罪の犠牲者の多くが女性であることを考慮し、国際法の中に「ジェンダー(性別)」の問題に関して(国際刑事裁判所の規定第7条をさらに発展させるかたちで)記載するようにと訴えている。

軍縮委員会の中でもスピーチしたカッチャ大司教は、核兵器や通常兵器による「抑止論は幻想である」と主張。さらに、「兵器の保持は、紛争予防よりも、その使用を奨励し、増産を促す」「相互不信を生み、(発展のための)資源を略奪する」「軍拡、兵器の準備や使用が、軍縮を道徳的義務としている」と伝えた。

また、「幻想である核抑止論が、往々にして、正当化できないこと(人道に対する罪)を正当化するために使われている」と非難。「保持されている核兵器が使用されるなら、人道的、環境的な大災害を招く」と述べた。そして、核兵器禁止条約への署名を促し、「新しい技術の発展(核兵器や武器の開発、AIの戦争利用をも含めて)を規制する国際制度は、人間の持つ天来の尊厳性と、人間を結びつける友愛を基盤とすべき」と訴えた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)