新英訳『法華経の新しい解釈』 47年ぶりに改訂
スケランジェロ博士の談話
このたび、発刊を長年待ちわびていた皆さまに、新英訳『法華経の新しい解釈』をお届けする準備が整い、とてもうれしく思います。この新英訳版では、開祖さまの解釈を通して、法華経の教えと平和思想を世界に広めることを目的に、改訂作業を進めました。初版から変更した点はいくつもありますが、大きく次の3点に留意しました。
まずは、読者と時代性を意識した単語と表現の変更です。英語を母国語としない人も含め、幅広い読者が理解しやすいよう、できるだけ平易な語彙(ごい)を用いて訳出するように心がけました。また、法華経の研修などで皆さんが読み合わせをすることを想定し、英語としてより自然な表現、かつシンプルな文構造となるように意識しました。さらに、現在の社会情勢に鑑み、性・人種差別を容認していると捉えられかねない単語や表現の使用を避けました。
次に留意したのは、小見出しの配置方法です。1976年に発刊された初版英訳『法華経の新しい解釈』では、英文図書における一般的な小見出しの編集法を踏襲し、原典に頻出する小見出しを適宜削除しました。その結果、読者が論旨を追いながら本文を理解しにくいという課題が生じました。この問題を解決するため、新英訳版では、論旨に配慮しながら追加すべき小見出しを一から見直し、選出した小見出しをさらに細分化して配置することに決めました。これにより、読者が順を追って本旨を理解できるようになるだけでなく、教義をより体系的に学習できる構成になったと思います。
そして、初版との一番の違いは、初版で割愛されていた開祖さまの解釈による経文の現代語訳を新たに英訳した点です。初版では、『法華三部経』の原典を尊重して、経文をそのまま引用していました。その結果、開祖さまの現代語訳によって教えを容易に理解し、経文に込められた深い意味を読み取ることが難しくなりました。
しかし、開祖さまは本書の「はじめに」の中で記されているとおり、法華経の教えとその精神が、現代の人々に理解され、共感され、生活の中へ沁(し)み通っていくことを願って『法華経の新しい解釈』を執筆されました。その開祖さまの願いを体現するため、新英訳版では開祖さまの経文の現代語訳を新たに英訳する決断をしました。開祖さまは現代語に置き換えるだけでなく、日常生活に即した非常に分かりやすい例え話を用いながら、大事なことを明快にお説きくださっています。私は今回、開祖さまの本意を英語読者にもしっかりと伝えられるように力を注ぎ、開祖さまの語りかける声が聞こえてくるような訳文になることを心がけました。
今回の翻訳作業を通して、私自身、開祖さまの宗教観や精神性を垣間見ることができたと感じています。開祖さまの温かく、親しみやすいお人柄が読者の皆さまにも伝わるように、まずは開祖さまを深く理解することに努めました。そのために、1950年代に開祖さまが機関誌「佼成」で連載していた「法華経解説」をはじめ、開祖さまが著した『新釈法華三部経』や『仏教のいのち法華経』などを読み込みました。翻訳者が変われば翻訳のスタイルや方針も変わり、まったく違うものが出来上がります。開祖さまの本意や宗教観を読者の方により正確に伝えられるように、翻訳者として大きな責任を感じながら翻訳作業に臨みました。
読者の皆さんには、英訳『法華三部経』(2019年発刊)と照らし合わせながら本書をゆっくりと読み進め、開祖さまの法華経観を味わって頂けたらと思います。本書が、皆さんにとって幸せな人生を歩むきっかけとなることを願っています。
プロフィル
2012年、米国バージニア大学で仏教学の博士号を取得。13年から14年には、カリフォルニア大学バークレー校に在籍し、博士研究員として日本仏教を研究。特に、東アジアにおける法華経の研究を専門とし、日本宗教学や近代から現代における宗教についても研究を行っている。14年からは本会の国際アドバイザーとして、国際仏教教会(IBC)での講師および「法華経国際会議」のコーディネーター、英文広報誌「Dharma World」への執筆と編集アドバイザーを務めている。