『無自覚な差別』をテーマに 「令和5年次職員人権啓発講座」

丸一講師は講演の中で、日本の女性管理職の割合と、本会の状況とを比較しながら、本会の女性の活躍に期待を示した(「Zoom」の画面)

立正佼成会人権啓発委員会による「令和5年次職員人権啓発講座」が10月11日、大聖ホール(東京・杉並区)を拠点に対面とオンラインのハイブリッド形式で行われた。教団職員ら約300人が参加した。

テーマは『そんなつもりはないけれど~無自覚な差別とマジョリティ特権~』。当日は、公認心理師であり在日コリアンカウンセリング&コミュニティセンター(ZAC)のセンター長を務める丸一俊介氏が講演した。

丸一氏は、差別は「攻撃的」や「悪意がある」など個人の人格が要因なのではなく、日常生活の中で誰しもが行う可能性があると前置きした上で、一人ひとりが自分の中にある「偏見」に気づくことが重要と強調。われわれは職場や学校、家庭など人間関係の中で、さまざまなフィルターをかけた状態で「物事を自分なりに判断している」と話した。

そうした「無意識の偏見」は過去の経験や周囲の意見など日常の情報から形成されるもので、無自覚でいると思考や行動に悪影響を及ぼすと解説。具体例として、米国のあるオーケストラについて紹介した。そのオーケストラでは1970年代に団員の95%が男性奏者だったが、性別が分からないような仕組みで入団テストを行うようにしたら、女性の合格者が目に見えて増加。審査員の中にある「女性は奏者に向かない」という偏見が判明したと話し、「社会の中で生きていれば当たり前に持ってしまうのが無意識の偏見です。だからこそ完全になくすことを目指すのではなく、偏見があることを知り、自覚的になる。それが悪影響を減らすことにつながります」と述べた。

さらに、日常的で認識しづらい侮辱や見下しを指す「マイクロアグレッション」について詳述した。女性(ジェンダー)や性的少数者(LGBTQ)、高齢者、障がい者、人種や民族的マイノリティなどが被害を受けやすいと説明。身近な例として、女性であるというだけで、仕事で大事な商談の場に呼ばれない、上司から「女性なのに頼りになる」と褒められる、高額な物を買う場面で店員が夫にしか話しかけないなど、悪意のない言動に含まれる「見下し」や「けなし」といった攻撃を日常的に受けていると語った。親しい間柄や支援の場でも生じるため、心理的負荷が高く、かつ繰り返しの蓄積で健康被害につながる可能性が大きいと話した。

また、日本社会の特徴として、言語による差別だけでなく、じろじろ見られるといった態度や行動、組織のあり方や建物の構造など環境による差別も多いと指摘。これまで「気にしすぎ」と扱われて、無いものとされてきた見えにくい差別、偏見を「可視化」したのがマイクロアグレッションで、「そんなつもりはない」という言動でも相手に有害な影響を与えていることを明らかにしたと説明した。

最後に、差別や偏見の問題を考える上で重要な視点として「マジョリティ特権」に言及。マジョリティとは「気にしない、気づかないでいられる人」というある社会学者の言葉を挙げ、自分が労せずして手に入れられるものに気づくことが差別を自分事として考えることにつながると話した。

また、マジョリティとマイノリティのどちらに当てはまるかというワークを紹介。どの項目にチェックがつくかを確認した後、人間は「いろんな軸でマジョリティ性、マイノリティ性が交錯した中で生きている」と伝え、多様性が尊重される社会をつくるには、マジョリティに属する側の人間が自分の特権に気づき、変化を恐れずにマイノリティの声を聞き、現状を変えていくことが大事であると訴えた。