「和解へ向かうゼレンスキー政権とバチカン」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

中東での緊張緩和と停戦を――教皇とWCC

10月7日に発生した、パレスチナ領ガザ地区を実効支配するイスラーム過激派組織ハマスによる5000発とも言われるイスラエルへのロケット弾攻撃は、米国で発生した「同時多発テロ」や、第二次世界大戦中の日本軍による「真珠湾攻撃」になぞらえて報道されるようになった。この大規模な攻撃の報復として、イスラエルはガザ地区を空爆し、同地区での地上部隊の展開をも準備している。双方の死者は2100人を超え、負傷者は5000人近くに上る。

ローマ教皇フランシスコは翌8日、バチカン広場での正午の祈りの席上、激化するパレスチナとイスラエルの状況に対する「憂慮と苦痛」を表明しながら、「攻撃と兵器の使用を中止し、テロ攻撃や戦争が何の解決ももたらさず、死と多くの無実の人々の苦しみを生むだけだということを理解するように」とアピールした。

さらに、「戦争は敗北だ。一つ一つの戦争が敗北なのだ」と訴え、「イスラエルとパレスチナの間に平和が到来するように祈ろう」と、参集した信徒たちに呼びかけた。

これに先立つ7日、世界教会協議会(WCC)のジェリー・ピレー総幹事は、「WCCは、この死をもたらす暴力とハマスによる攻撃を即時停止し、双方が緊張緩和に努めるよう緊急アピールを行う」との声明文を公表した。この中で、「現在、展開されている攻撃はさらなる暴力を生むだけで、平和や正義への道に導かない」と指摘。「キリストの生誕地で正義にかなった平和が到来するように祈ろう」と、WCCのメンバー諸教会に呼びかけた。

聖都エルサレムのキリスト教指導者たちも同日、合同声明文を公表し、「聖地での長期にわたる政治紛争と、(パレスチナ人に対する)正義、人権尊重の欠如」を非難し、3宗教の聖域管理に関する歴史的、法的な「慣習」(Status Quo)の重要性を強調した。なぜなら、ハマスはイスラエル攻撃の理由として、「イスラエルによる5000人に及ぶユダヤ教徒のアルアクサ・モスク(ムスリム=イスラーム教徒=にとって3番目に重要な聖地である一方、ユダヤ教徒にとっても重要な聖域)へのアクセス許可」を挙げ、これを「イスラームに対する冒とく行為」としているからだ。

さらに、「一般市民を標的とする攻撃を非難」する聖地のキリスト教指導者は、政治指導者や政権担当者に対し、「あまりにも長く続く紛争という重荷に耐える住民たちのために、正義、平和、和解を推進していく誠実な対話を実行していくように」と訴えている。

また、国際社会に対しては、「(イスラエル人とパレスチナ人の)同等の権利と、国際法を基盤とする、聖地での正義にかなった恒常的和平を調停する努力を倍増すべきだ」とアピールした。

ところが、在バチカンイスラエル大使館は、聖地のキリスト教指導者による合同声明文を、「道徳的にも不明瞭な表現」を使っていると批判した。「誰が攻撃者で、誰が防衛者なのかを明確にしていない」としている。“Status Quo”を強調する部分がイスラエル政府の進める東エルサレムのユダヤ化政策を、またパレスチナ人に対する正義や人権尊重の欠如に関する文章がイスラエル政府を批判しているとの意味合いも含まれている。

ロシア正教会のキリル総主教も7日、「聖地での軍事闘争が、即刻に停止されることを祈る」とする声明を明かした。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)