「国連安保理が満場一致で採択した“人類友愛決議案”」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)
国連安保理が満場一致で採択した“人類友愛決議案”
ウクライナ侵攻と、米・中国間での新たな“冷戦”によって分断された世界を反映するかのように、常任理事国が相互に拒否権を行使することで、国連安全保障理事会は完全な機能不全に陥っている。人類が二つの世界大戦による廃虚から立ち上がるために制定された国連憲章の精神を尊重、実行し、世界の安全保障と平和を促進するために創設された最重要機関が今、身動きできなくなり無力化しているのだ。
この人類にとって悲劇的な状況を克服していく一環として、国連安保理は6月14日、「人類友愛の価値観」について検討するセッションを開催。これに、ローマ教皇フランシスコとイスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」(エジプト・カイロ)のアハメド・タイエブ総長がビデオメッセージを送った。
両指導者は、2019年にアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで合同署名した「人類の友愛に関する文書」の精神に基づき、世界平和の構築に向けた道程を示していった。教皇は腹部ヘルニア手術で入院していたため、メッセージはバチカン国務省外務局長(外相)のポール・リチャード・ギャラガー大司教によって代読された。
この中で、教皇は、安保理理事国の指導者たちに対し、「拡大していく個人主義、物質主義、消費主義に裏付けられる新たなイデオロギー」に警鐘を鳴らした。さらに、「友愛の欠如による最悪の結果は、個人だけでなく、全国民をも敵とする武力紛争、戦争」であり、愛する家族の命を奪い、故国を廃虚にすることで生まれる憎悪は数世代にまで及ぶと警告。「信仰者としての私は、平和こそ、神の人類に対する夢であると信じるが、今では実現の難しい悪夢となりつつある」「平和を現実のものとするには、戦争を正当化する論理から離れる必要がある」と主張した。
そして、「核兵器や大量破壊兵器の出現によって戦場に限界がなくなり、その使用による効果は壊滅的となる」と戒めた。そのため、「戦争に強く反対し続け、正当な武力行使などなく、平和のみが正しいと発言する時が来ている」という。
教皇は、「(核兵器の)抑止力による均衡を基盤とする不安定な平和ではなく、我々を結び付ける『友愛』を基盤とする、安定した恒常的な平和」が必要とされていると強調する。だからこそ、「平和の構築者は、友愛を促進していかなければならない」と述べ、「人類史において、平和の章を書き綴(つづ)る余地が残されている」「戦争が、未来ではなく、過去の出来事となるよう努力しなければならない」と呼びかけた。
最後に、教皇は、「人間の本質的な側面は、それぞれが関係によって成立している存在であるというところにあり、その関係性が、各々を真の兄弟姉妹としている」と語った。仏教的な表現を使うならば、「諸法無我(しょほうむが)が人類友愛の実相」なのだ。
タイエブ総長は、安保理に送ったビデオメッセージの中で、イラク、アフガニスタン、シリア、リビア、イエメンなどで続く「無意味な戦争に終止符を打たせるように」と訴えた。また、「(中東紛争から)75年を経た今こそ、パレスチナの独立を承認するように」とも促した。
さらに、「欧州大陸東部の国境で展開されている戦争」(ウクライナ侵攻)が、恐怖を巻き起こし、「人類を原始期へと後退させていく恐れがある」と警告。今日、国連安保理の会議は、「人類の未来にとって必要な会議」であり、「2019年に合同署名された『人類の友愛に関する文書』の精神は、政治指導者たちによっても追求されなければいけない」と呼びかけた。
国連安保理の参加者は、両宗教指導者からのアピールに耳を傾け、人類友愛の価値観について審議し、UAEと英国が共同提案した「2686(2023)決議案」を満場一致で採択した。
同決議案は、「憎悪の挑発、人種差別と嫌悪、不寛容、性差別、過激主義による行為が、戦争の勃発、発展の繰り返しを誘発する」と警告しており、「歴史的」「奇跡的」とも評される国連安保理の決議文だった。