ロシアとEUの間で揺れるモルドバ(海外通信・本紙バチカン支局)

ウクライナとルーマニアに国境を接する小国モルドバ。政権は、隣国のウクライナ同様、欧州連合(EU)への加盟を志向する親欧州派だが、東部に国際的には認められていない「沿ドニエストル共和国」(トランスニストリア地域)と呼ばれるロシア人居住区を有し、そこにロシア軍が駐屯している。

ロシアのプーチン大統領は2月21日、同国によるウクライナ侵攻の開始から2月24日で1年が経過するのを前に、連邦議会で行った年次教書演説を通して、「新START(新戦略兵器削減条約)の履行停止」などを公表し、反欧米路線をより強力に打ち出した。その一環として、プーチン大統領は、「沿ドニエストルの特別な地位を決定する際に、モルドバの主権、領土保全、中立的地位への尊重に基づいて分離独立問題の解決方法を模索する」と約束していた2021年の政令を破棄すると発表。その理由は、「国際関係で起きている重大な変化に関連して、ロシアの国益を確保するため」だと述べた。

これは、EU加盟を志向するモルドバ政権に対し、沿ドニエストルの分離独立問題に関してロシアが直接的に介入、決定することを示唆する動きだ。ロシアが一方的に自国への併合を宣言し、現在もロシア、ウクライナ両軍で激しい戦闘が展開されているウクライナ東部のドンバス地域(ロシア人居住区)に似た状況が、トランスニストリア地域でも発生することが懸念されている。

こうした国際関係の対立を背景に、モルドバの首都キシナウで2月28日、親ロシア派で反モルドバ政権を旗印に掲げる少数政党の支持者数千人が抗議デモを展開。政府官庁を攻撃しかねない動きに緊張が高まった。デモの参加者は首都への入り口となる幹線道路を遮断し、交通まひを起こしたという。「欧州最貧国」と呼ばれるモルドバは、新型コロナウイルスやウクライナ侵攻の影響を受け、医療、エネルギー、経済制度が危機的な状況にあり、国民の不満も募っている。今回の抗議デモによって、国民の不満が煽(あお)られるのではないかとも予測されている。

同国カトリック教会キシナウ教区のチェザレ・ロデゼルト神父は、「親ロシア派の抗議デモがどこまで過激化し、またトランスニストリア地域の状況がどうなるのか」が不透明であり、「この国の未来は、(国民の)日々の疑問符となっている」と述べた。

一方、モルドバ議会は3月2日、ウクライナ侵攻を「明確な攻撃であり戦争犯罪。国際法の定める原則と、ロシアが誓約した国際義務の重大な蹂躙(じゅうりん)」と指摘。「(ロシアは)ウクライナでのあらゆる軍事活動を停止し、ウクライナ全領土から全ての兵力、戦争兵器を無条件で撤退させるべき」とする宣言文を採択した。さらに、「ウクライナへの物資輸送を容易にし、人道援助を継続していく」とも約束している。

また、同議会では、「モルドバ国民の使う言語の呼称をモルドバ語から『ルーマニア語』(EU加盟国ルーマニアの言語)に変更する」とする法案が提出された。公用語の名称を変更することで、EUへの加盟志向をロシアに対してより強く伝達していこうとする意図が法案の背後にうかがえる。

(宮平宏・本紙バチカン支局長)