中央学研「第13回善知識研究会」 コロナ禍で顕在化した介護や葬儀の問題に目を向け、解決の糸口を探る

死生観、スピリチュアリティの教育と学びについて講演する大下師(「Zoom」の画面)

立正佼成会中央学術研究所の「第13回善知識研究会」が10月22日、『家族のありようを考える―コロナ禍により見えてきた介護・葬儀・お墓の継承をめぐって―』をテーマに、オンラインで開催された。少子高齢化が進む日本社会において、コロナ禍により顕在化した介護や葬儀の問題に目を向け、課題解決の糸口や新たな家族のありようを見いだすことがねらい。同研究所外部講師や客員研究員をはじめ、教会長、会員など102人が出席した。

当日は、高野山真言宗飛騨千光寺住職の大下大圓師が『死生観・スピリチュアリティの教育と学び―自利利他の家族ケア―』と題し、基調講演を行った。

臨床宗教師として終末期医療に携わる大下師は、「スピリチュアリティとは、霊性や哲学、いのちなど多義的な概念である」と説明し、「WHO(世界保健機関)の健康の定義に、『スピリチュアルに健康な状態』を加えることが大事だと打ち出されている」と語った。その上で、患者一人ひとりのスピリチュアリティを理解するため、ケアラー(介護者/支援者)への教育の重要性と、患者および家族と医療チームが終末期医療・ケアについて繰り返し話し合い、患者の意思決定を支援するプロセス(ACP=Advance Care Planning)の必要性を示唆。「人生の最終段階をどう迎えるか、患者と家族に関わるケアラーの力量が問われている」と投げかけた。

続いて、佼成病院チャプレンの伊藤高章氏と有限会社川本商店社長の川本恭央氏が、それぞれの現場における事例を発表した。

伊藤氏は、『宗教の公共性回復による家族支援―Communitasと傾聴―』をテーマに、看護師と寺の住職が協力して看護に携わる「訪問看護ステーションさっとさんが願生寺」の事例を紹介しながら、「家族の生活を守りながらケアする喜びを味わえるには、宗教の役割が大きい」と述べた。立場や考え方の違う相手を受け入れる開かれた宗教性(Communitas)が大切とし、「家族の抱える介護のつらさを共有し、常に相手の立場を想像しながら私心なく傾聴することで、互いに支え合って生きていることが実感できる。心をすくい上げるのがスピリチュアルケアであり、それをできるのが公共的な役割を担った宗教(者)である」と示した。

川本氏は『今、求められる血縁家族、そして社会家族への広がり―葬儀・お墓の現状と事例からわかること―』をテーマに、葬祭業を通して得た体験を発表した。独居高齢者の増加に加え、長引くコロナ禍により、小規模で簡略化された葬儀や屋内墓、「墓じまい」への需要が高まっていると指摘。「葬儀は残された家族(遺族)の癒やしの場」と述べ、葬儀や墓の継承について日頃から家族内で話し合いを重ねることが大事と語った。

この後、大会議長を務める橋本雅史中央学術研究所所長をコーディネーターに、大下師、伊藤氏、川本氏によるパネルディスカッションが行われ、地縁、血縁、法縁など身近な人々とのつながりの重要性について、議論を交わした。