教皇がカナダ先住民の若者に対してスピーチ(海外通信・バチカン支局)

ローマ教皇フランシスコは「世界の先住民の国際デー」にあたる8月9日、「世界の先住民の持つ、家庭と共同体に対する純粋な感覚がどれほど貴重なことか。若者と老人との間で絆を培い、全被造世界(自然)との健全で調和した関係を保全していくことが、どれほど重要なことか」とツイートした。

これに先立つ7月29日、教皇は訪問中のカナダで北極圏から約300キロにある極北都市のイカルイトを訪れ、現地人口の6割を占める先住民「イヌイット」と出会った。かつて「イヌイット」の子供たちは、同国連邦政府による同化政策で強制的に寄宿学校へ入れられ、白人のキリスト教徒である聖職者や教師たちからさまざまな虐待を受けた。

教皇は、寄宿学校の生存者たちと個別に懇談した後、同民族の高齢者と若者たちの前でスピーチし、バチカン、カナダのエドモントン、ケベックで先住民と会い、同化政策下でのキリスト教徒の行いを謝罪してきたことに言及した。さらに、先住民のある老人が「寄宿学校制度が開始される前は、祖父母、両親、子供たちが調和のうちに生き、あたかも母親の周りで小鳥たちがさえずる、春のような美しい家庭の雰囲気だった。しかし突然、そのさえずりが止まり、家庭が分断され、子供たちが遠く離れた場所に連れ去られた。そして、一挙に冬がやってきた」と語ってくれたことを述懐。この言葉が、「苦痛を生み、スキャンダル(醜聞)を呼び起こす」と述べ、「先住民に強制された同化政策は聖書に反する」と糾弾した。

その上で、「過去の出来事を明らかにし、暗い過去を克服する」ことで、「癒やしと和解への道を共に歩もう」と呼びかけ、先住民の証しを「夜の暗闇に負けない、明るい生き方」「抹消できない生命の証」「誰も消滅させられない光の輝き」と評価した。

また、先住民が、与えられた土地を「愛し、尊重し、保全するだけでなく、それに価値を与え、高齢者に対する尊敬、純粋な友愛、環境の保全といった基本的価値観を、世代を超えて継承していった」と称賛。「イヌイットの若者たちがこの土地の未来であり、歴史の現在である」と指摘し、彼らに対して、「高齢者からの忠告に何度も耳を傾け、新たなページを書くために歴史を抱擁していくように」と促し、三つの進言をした。

一つ目は、「上に向かって歩め」だった。教皇は、「自身を上に向けて解放していく」ことについて、「心の中にある、真でより良き願い、すなわち、愛する神を見上げ、隣人に奉仕していくこと」「自らの道徳的感覚を強め、慈悲心を深め、他者に奉仕し、(他者や自然との)関係を構築していくこと」と説明。現在の世界が、「スキャンダルによって沈下し、戦争、欺瞞(ぎまん)、不正義、自然環境の破壊、弱者への無関心、模範を与えるべき人たちへの幻滅」に支配されているが、それらを克服していくための答えは「あなたたちだ」と強調した。そして、「未来はあなたたちの手中にある」と示し、「十字架上のキリストは、あなたが自分を信じなくなった時も、あなたを信じる」と説いた。

二つ目の進言は、「光明をもたらせ」。教皇は、「イヌイット」の若者たちに対し、「あなたたちは毎日、世界に新しい光明をもたらすようにと呼びかけられている」と伝え、彼らの「目の輝き、ほほ笑みの明るさ、自分だけが世界に与えることのできる善」に期待を寄せた。だが、「光明をもたらすためには、暗闇と闘わなければならない」とも忠告した。「若者たちの魂を最も暗い暗黒に突き落とすのは、彼らの信仰、希望、愛の光を消滅させる『虚偽の預言者』だ。彼らは光沢を持ち、魅惑あることを見せつけるが、心のうちに大きな空洞をもたらす」という警告は、西洋文明が植民地主義を通してもたらした世俗主義という「虚偽の預言者」に惑わされないように、という教皇のメッセージだった。

最後は、「チームを創れ」だ。教皇は、先住民の若者を「天に輝く星のようだ」と表し、天空で輝く星が美しいのは「共に輝くからである」と指摘した。「天空はさまざまな星座によって構成され、その星々が世界の夜の中で方向を示している」と述べ、「あなたたちは、共に輝くために生まれてきた」とスピーチを結んだ。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)