戦争は人間性を喪失させる――宗教者たちがウクライナでの多数の民間人殺害を非難(海外通信・バチカン支局)

ロシア軍の撤退後、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャ、イルピン、ボロディアンカなどで、多数の民間人の殺害が次々と明らかになっている。イタリアの「ANSA通信」は4月6日、ウクライナのイリーナ・ヴェネディクトワ検事総長が、国内全土で発生した5000件を超える「戦争犯罪」について捜査を開始し、人類に対する犯罪や民族虐殺の可能性にまで捜査の幅を拡大する意向を表明していると報じた。

これに先立つ3日、ウクライナ正教会モスクワ総主教区派のオノフリー大主教は、日曜礼拝の説教の中で、ロシア軍がブチャを占領した数週間、「数百人、あるいは、数千人の罪なき人々が拷問を受けた。しかし、一般市民がロシア軍の脅威になることはなかった。彼らを虐待するどんな軍事的理由もなかったのだ」と非難した。

さらに、多数の民間人の殺害は、「民族虐殺の兆候」であり、ロシア軍は、「ウクライナの解放ではなく、暗黒の悪魔的行為を継続するために侵攻してきた」と糾弾。「独裁者(プーチン大統領)と独裁国家(ロシア)が、ウクライナ国民を民族虐殺の道具としないよう、国際社会に向かって声を上げる」と述べた。

さらに、「(一大)ロシア国家というイデオロギー(説話)は、ナチス主義と同じだ」と指摘。そのイデオロギーを主導するのが、ロシア正教会の最高指導者であるキリル総主教であるとの見方を示し、同総主教とその協力者たちが、「あらゆる方法で戦争をあおり、明確に神と教会の名を使い戦争を祝福した」と激しい口調で批判した。

世界教会協議会(WCC)のイオアン・サウカ暫定総幹事は4日、ブチャで起きた多数の民間人殺害に対し、「嫌悪を表明する」との声明文を発表した。この中で、「戦争が、人間をこうした野蛮性へと導くのは周知のことである。人間性の極悪化を防止するためにも、調査に基づく犯罪者の法的責任を追及する制度が必要とされる」と主張。また、さらなる犠牲者、被害者の発生、共同体の破壊を防止するためにも、ウクライナの惨状は「この恐るべき戦争を即刻に停止する必要性を訴えている」とも述べた。最後に、戦争を企て、侵攻を支持する政治責任者たちに対して、「流血と破壊を停止し、全ての子供や男女の生命を救うように」と訴え、メッセージを結んでいる。

英国国教会の最高指導者であるジャスティン・ウェルビー・カンタベリー大主教も4日、「戦争は人間性を喪失させる。世界はその例をブチャに見た」とツイート。「ウクライナ国民を攻撃する戦争を主導する者たちが、自らの人間性を再発見し、神の尊き子供たちを殺害する憎悪すべき行為を停止するように」とも述べた。

ローマ教皇フランシスコは6日、バチカンで水曜日に恒例となっている一般謁見(えっけん)の席上、ウクライナ情勢に言及。参加した巡礼者たちに対し、「ウクライナ戦争の最新の情報は、安堵(あんど)と希望をもたらすものではなく、ブチャでの虐殺のように残虐性を示すものだ」と述べた。また、女性や子供たちを含む無辜(むこ)の民間人が多数殺害されている状況に対し、「犠牲となって流された無辜の人々の血が、戦争に終止符を打つようにと嘆願となり、天に上がっている」と悲痛な心境を明かすとともに、軍事侵攻を糾弾。「戦争を停止せよ! 武器の轟音(ごうおん)を沈黙させよ! 死と破壊をまき散らすことを止めよ!」と訴え、共に祈りを捧げるよう促した。

この後、教皇は、ブチャでロシアの軍事侵攻に反対するために掲げられていた同国の国旗を受け取り、「この旗は、戦地のブチャから届きました。ウクライナの人々のことを忘れないようにしましょう」と信徒たちに呼びかけた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)