キリル総主教の言動に揺れる世界の正教会 バチカンの平和外交が始動(海外通信・本紙バチカン支局)

ロシア正教会の最高指導者であるキリル総主教はこのほど、モスクワの「救世主教会」(総主教座大聖堂)でロシア国家親衛隊(大統領直属の治安部隊)のビクトル・ゾロトフ局長と面会し、局長にキリストの母である聖母の画像を贈り、「この絵が(ウクライナに侵攻している)ロシア軍を護(まも)り、速やかな勝利をもたらすと信じている」と述べた。ギリシャの「オーソドックス・タイムズ」が3月14日に伝えた。

キリル総主教の言葉に対してゾロトフ局長は、「私たちが望んだように作戦は速やかに進まなかった」と発言し、それは、「ナチス(ウクライナ人、特にゼレンスキー政権)が市民、老人、子供たち(人の盾)の背後に隠れているからだ」とし、ロシア軍のウクライナ侵攻が想定していた電撃作戦にならなかったことを認めた。このキリル総主教の言動を、キプロス島の正教会の最高指導者であるクリゾストモス二世大主教は、「ロシア人はまず、十字架を切って、それから殺す」という厳しい表現を使って糾弾した。

エジプトのコプト正教会カイロ中央教区のアンバ・ラファエル主教は、「戦争は、当事者全員の敗北となる。悪魔のみが戦争に満足し、死体の頭の上で喜び踊り、夫を亡くした女性、孤児、嘆き悲しむ母親の苦痛に遊ぶ」と象徴的な表現を使って、ロシア軍のウクライナ侵攻を非難した。

一方、シリア内戦でアサド政権を支援したロシアのプーチン大統領に対しては、「ここ数年間、ウラジミール・プーチン大統領は、中東において自身があたかも、キリスト教の擁護者であるかのようなイメージを植え付けようとしてきた」(ローマ教皇庁宣教事業部国際通信社「フィデス」)との表現が使われる。シリアの首都ダマスカスを拠点とするアンティオキア正教会(ギリシャ正教会系)は同2日、「同じ洗礼を受けたロシア人とウクライナ人が、その共通の絆によって恵まれた友愛の効果を発揮させるように」との希望を表明した声明文を明らかにした。同声明文では、「全能の神よ、平和の論理を優先させ、対話の言語を採択することによって、全ての人をさらなる破壊と人間生命の喪失から救うように、決断を下す政治指導者たちに、インスピレーション(ひらめき、啓示)を与えてください」と祈っている。アンティオキア正教会の指導者たちは、軍事的にロシアに依存する国内状況を考慮し、例えばウクライナ正教会のモスクワ総主教区(ロシア正教会)からの独立に関して言及を避けているが、シリア内戦の状況については、対話による「シリア国民の希求を考慮した、速やかな政治解決」を求め、「地政学に基づく、シリア領土の一体性を破壊するような政策に反対」する立場を表明している。

正教会のアレクサンドリア総主教(全アフリカ総主教)セオドロス二世はロシア語を話し、プーチン大統領と個人的な接触を持ち、ウクライナのオデッサで10年間の研究生活を続けたことで知られる。その総主教が、正教徒であるプーチン大統領に対して、自身を「強権者と信じ、自身の意見を他者に押し付け、現代の皇帝だと思っている」と非難の言葉を発している。「神からの豊かな恵みを受け、自身を超人的と確信し、地上に足を置くことを忘れている」からだ。

セオドロス二世のプーチン大統領とロシア正教会への批判は、さらに続く。アレクサンドリア総主教区(エジプト)は「ロシアのウクライナ侵攻を直ちに糾弾した」が、それは「私たちが、ロシア正教会からの、もう一つの悪い介入を体験していたからだ」。「悪い介入」とは、プーチン大統領の実行するアフリカ大陸での影響力拡大政策に合わせて、ロシア正教会が自身の教区を創設し、アレクサンドリア総主教区に属していたアフリカ大陸各地の正教会聖職者や信徒たちの獲得に乗り出してきたことだ。