ウクライナ侵攻に宗教的動機を与えるキリル総主教(海外通信・バチカン支局)

バチカン国務省長官のピエトロ・パロリン枢機卿は、8日にロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と電話で会談した。翌9日には、ローマ市内で報道関係者に対し、「キリル総主教の発言は、(和平)合意の促進も、成立もさせないもの」と批判。「議論を加熱させて緊張を高めるだけで、平和的解決にはつながらない」と述べた。

また、今年6、7月ごろの実施に向けて調整が進められていると推測されていた、ローマ教皇フランシスコとキリル総主教の2度目の会見に関しては、「教会間(正教のコンスタンティノープル総主教区=現トルコ・イスタンブール=とモスクワ総主教区、カトリック教会とロシア正教会)の関係が緊張してきており、困難になってきた」との考えを明らかにした。

キリル総主教による「ウクライナ侵攻の正当化」に反対する声は、ロシア正教会内からも上がっている。同正教会欧州大主教区のジョバンニ・ディ・ドゥブナ大主教は9日、「大主教区の全信徒を代表し、ロシア正教会の最高指導者に要請した」公開書簡を発表。「この魔物的で無意味な戦争に反対の声を上げ、ロシア政府に対して、ほんの少し前まで想像もできなかった、同じ数世紀にわたる歴史とキリストへの信仰によって結び付けられている二つの国民間での戦争を停止するよう要請してほしい」と求めている。さらに、「どうか聖下(キリル総主教)、世界を分断させ、死と破壊をまき散らす、この恐るべき戦争に終止符を打つため、可能な限りのご努力を」と嘆願している。

一方、キリル総主教は10日、ロシア正教会も所属する世界教会協議会(WCC)のイオアン・サウカ暫定総幹事からの「反戦の声を上げるように」と要請する公開書簡に返信した。この中で、NATO加盟国の軍事力増強に対するロシアの憂慮を無視し、欧州東部へ勢力を拡大し続けてきたことを非難。「兵器よりもさらに恐ろしいのは、ウクライナに住むウクライナ人とロシア系住民の“再教育”であり、ロシアの敵とみなすように彼らのメンタリティーを変えていく試みだ」と主張した。さらに、2018年にコンスタンティノープル・エキュメニカル総主教であるバルトロメオ一世が、ロシア正教会の管轄下にあったウクライナ正教会の独立を承認したことで生じた教会の分裂に触れ、これも「同じ目的を持っていた」と述べた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)