欧州大陸に吹く戦争の風――緊迫するウクライナ情勢(海外通信・バチカン支局)

一方、ポーランドとウクライナのカトリック司教たちは1月24日、「戦争は、神と人類に対する犯罪であり、躊躇(ちゅうちょ)なく弾劾されるべきだ」と伝える合同声明文を発表した。両国の司教は、「ロシアと欧米諸国間での合意が成立しない状況」に憂慮を表明。ウクライナとの国境付近に兵器と兵力を集結させて圧力をかけ、クリミア半島の併合やドンバス地域への軍事介入を続けるロシアの行動を、「ウクライナの主権と領有権の侵害」「国際法違反」として非難している。

また、ウクライナ国境付近で高まる緊張は、中欧・東欧諸国、さらには欧州大陸にとって大きな脅威であり、「多くの世代によって構築されてきた欧州の平和秩序と統一を破壊する」と警鐘を鳴らした。政治指導者たちが、改善されなければ軍事行動を起こすとする「最後通告といった慣習」を廃止し、他国を国益のための交換条件として使わないようにと求めている。

世界教会協議会(WCC)のイオアン・サウカ暫定総幹事も1月25日、声明文を公表し、情勢に対する憂慮を表すとともに、ロシアと欧米諸国に対して地政学的な勢力争いをやめるよう訴えた。この中で、「(政治指導者の)心と考えが変わるように、また、威嚇ではなく、緊張緩和に向けた対話がなされるように祈る」と明示。「神の民(キリスト教徒)、WCCに所属する教会は、対立する双方の勢力の下で暮らしているが、私たちに共通する神は、戦争や威嚇ではなく、平和の神である」とし、武力行使への反対を表明した。

米国カトリック司教会議の「国際正義と平和委員会」は25日、全ての指導者に対してウクライナの領土保全と主権を尊重するよう求め、「4300万人のウクライナ国民の生命と生活に多大な影響を及ぼす紛争の回避と、建設的な対話による平和的解決」を訴える声明文を公表した。1月26日を「ウクライナ平和祈願の日」とする教皇の提案にも触れ、ここでも「善意の人々」という言葉を使って、彼らに向けて「あらゆる政治の取り組みが、人類友愛のための奉仕であるようにと、全能の神に共に祈りを」と呼びかけている。

これに先立つ21日、欧州カトリック司教会議評議会も、ウクライナのカトリック教会と国民に連帯するとの意思を表明。「前世紀に起きた世界大戦の悲劇を忘れてはならない」と強調し、「国際法、国家の主権と国土の領有権が守られるように」と訴えた。

「朝日新聞」電子版は1月27日、ロシア側が昨年12月にユーラシア大陸でのNATOの勢力拡大停止などを盛り込んだ要求を示し、欧米側に文書による回答を求めていたことを報道。26日にブリンケン米国務長官が、米政府の回答を記した書面をロシア側に伝達したが、「米ロ間の溝が埋まることはなかった」と伝えている。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)