「一食福島復興・被災者支援」事業 7団体に計600万円を助成
立正佼成会一食(いちじき)平和基金運営委員会はこのほど、今年の「一食福島復興・被災者支援」事業の拠出先として、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故の被害を受けた福島の復興に取り組むNPO法人や非営利組織など8団体を選出した。このうち1団体は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で事業を断念したため、最終的に7団体に計600万円を助成した。同事業のスタートから被災地の調査などを担ってきたNPO法人ふくしま地球市民発伝所(福伝)の活動終了に伴い、今年から新たに、同県内でボランティア団体の連携や活動支援を行うNPO法人うつくしまNPOネットワーク(UNN)に支援先の選定を委託。管理費として150万円が寄託された。
震災から10年が経過した福島県では、事故を起こした福島第一原発の廃炉作業や、汚染地域の除染作業が進められ、現在までに「帰還困難区域」以外の全ての避難指示が解除されている。JR常磐線の全線再開をはじめ、病院や学校といったインフラも整備されつつあるが、放射能の影響などさまざまな理由から帰還が進まず、今も3万人以上が県内外で避難生活を続けている。
帰還をめぐって避難者の抱える問題は複雑化しており、UNNでは避難者の現状などを調査。避難指示が解除されても帰還者や定住者が増えない現実や、新たなコミュニティーづくりの難しさなどが見えてきたことから、帰還者の生活再建や子育て支援に取り組むNPO法人などを助成先に選定した。
このうち、「原子力災害考証館furusato運営委員会」は、震災と原発事故に関する記録を保存し、災害の教訓を次世代に継承するため、地元有志によって設立された。代表の里見喜生氏が館主を務めるいわき市湯本温泉の旅館「古滝屋」の一室を開放して、原発事故に関する報道資料や関連書籍などを自由に閲覧できる資料館を開館する。現在は、原発事故後に“ゴーストタウン”と化した町並みの写真や、津島地域の原発訴訟に関する資料など約100点が展示されている。
「生きたアーカイブの構築」をコンセプトにしており、資料には津波や原発事故の被害に遭った当事者から提供されたものも多い。家族を津波で亡くした大熊町の男性は、「災害を風化させないために」と、家族の写真や遺品、自宅跡から見つかった思い出の品などを供与。避難指示の影響で5年9カ月に及んだ次女の捜索の過程が、パネルや書籍とともに常設展示されている。
また、動画共有サイトに投稿された原発事故に関する映像をアーカイブとして保存し、館内で視聴できるようになっているほか、新型コロナウイルス感染症の流行で人の移動が制限されていることから、同館を訪れなくても原発事故について学べるよう、全ての紙媒体資料と関連書籍の目録を作成。ウェブサイトで公開するとともに、一部をウェブ本棚サービス「ブクログ」に登録している。
昨年3月の開館以来、コロナ禍の中にもかかわらず、家族連れや報道関係者など約600人が訪れている。代表の里見氏は、「考証館という名前には、原子力災害を福島だけの問題で終わらせず、国民一人ひとりが当事者として問題意識を持ち、向き合っていくためのきっかけをつくりたいという願いを込めました。もう二度と故郷を失う人が出ないよう、また、全ての人の“生きてきた歴史”を守れるよう、皆さんと一緒に考えていきたい」と語った。