友愛と対話を求めて――教皇がキプロス島訪問(海外通信・バチカン支局)

キプロス島訪問中に正教会のクリゾストモス二世大主教と面会し、記帳するローマ教皇フランシスコ(バチカンメディア提供)

地中海に浮かぶキプロス島は、ギリシャ系とトルコ系の住民による紛争でできた緩衝地帯「グリーンライン」(国連管理)によって南北に分断されている。ローマ教皇フランシスコは12月2、3の両日、ギリシャ系住民が暮らす南部のキプロス共和国を訪問し、現地のカトリック教会(信徒数3万8000人)を励ました。さらに同地域の主流派である正教会との対話に臨んだほか、中東などから欧州大陸を目指して命懸けで地中海を渡ってきた難民たちとも面会した。

2日、南部の首都ニコシアに到着した教皇は、アナスタシアディス大統領らと懇談した後、政府関係者、市民社会の代表者、外交団に対してスピーチ。数十年間にわたりキプロスの人々を苦しめてきた南北の対立を「恐るべき分断」とし、「あなたたちの平和、全島の平和のために祈り、全ての力を尽くし平和を願う」と述べた。

また、「紛争を解決し、友愛の美しさを再生させるには、『対話』に尽きる」と強調。南北の融和に向け、「忍耐強く、柔和な対話の力を信じ、助け合おう」と呼びかけた。対話の道は、「長く、紆余(うよ)曲折するもの」としながらも、「和解に向けて他の道はない」と示した。

キプロス島住民の要請を尊重し、国際社会の誠意ある支援と積極的な介入、宗教的、文化的な遺産の保護、少数派の宗教の信徒にとって特別な意味を持つ聖域や遺品の返却も訴えた。スウェーデンが主導する「キプロス島和平プロジェクトに向けた諸宗教者の道」に言及し、諸宗教指導者間における対話を奨励した。

さらに、中東のカトリック教会諸派(レバノンのマロン派やラテン派など)の信徒、世界各国からの難民で構成される、聖都エルサレム教区に属するキプロス島のカトリック教会に対して、「友愛」に基づく信徒間の一致の重要性を説いた。自身や所属する共同体についてのことだけを考え、結束や対話をなすことなく、共に歩まないのであれば「暗闇から完全に治癒されることはない」からだ。その上で、「人間解放の力を持つ福音宣教の喜び」に触れ、「相手を改宗させるために布教するのではなく、福音を証してください。相手を非難する道徳主義ではなく、相手を抱擁する慈しみです。外的な儀式ではなく、生きられた愛を示してください」と呼びかけた。

教皇は翌3日、同国正教会の大主教座聖堂でクリゾストモス二世大主教と懇談した。この後、主教会議のメンバーたちに対し、キリスト教の一致に向けたプロセスにおいて、「信仰を生きるために、本質的ではない通例や慣習を絶対化してしまう危険性」を挙げ、「私たちは胸襟を開き、勇断な行為を成し遂げることを恐れず、福音(聖書)を基盤としない“妥協できない相違”を主張しないようにしよう」と述べた。「複数形の小文字で表現される諸伝統(traditions)が、単数形の大文字で表現される伝統(TRADITION=福音、聖書)に勝ってはいけない」とし、各教会が自らの伝統を固辞することで、全キリスト教会に共通する聖書のメッセージを忘れないようにと述べた。

この日は、ニコシアのカトリック教会で難民や移民のグループとも面会。彼らの証しに耳を傾けた後、鉄条網や壁によって難民、移民の入国を阻む欧州各国の自国第一主義と、人々の苦しみに無関心な姿勢を非難した。欧州各国が国境に設置した鉄条網は「一国家が布告する憎悪の戦争」であり、「自由、パン(食料)、助け、友愛、喜びを求め、(戦争や紛争といった)憎悪から逃れる人々を鉄条網というもう一つの憎悪の前に立たせている」と述べた。

さらに、「私たちは、前世紀のナチス・ドイツやスターリンによる強制収容所を非難するが、それは(難民たちの)強制収容所として今も続いている」と指摘。分断で生じた憎悪は、「私たちキリスト教徒の関係をも毒し、深い傷痕を残して、長期間にわたり蝕(むしば)む、解毒が困難なもの」であり、「歪(ゆが)んだメンタリティー」であると主張した。「憎悪が、難民や移民を兄弟として認めることを妨げ、(彼らを)売ったり、搾取したりする“物”と見るだけでなく、敵対者、競争者と見なす」姿勢を非難した。

教皇は、イタリア政府や聖エジディオ共同体(カトリック在家運動体=本部・ローマ)と協力し、同島で生活する難民50人をイタリアへ移動させる取り組みを主導した。彼らの交通費や生活費などはバチカンが負担する。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)