ミャンマーの現状を憂い、ボー枢機卿がメッセージを公表(海外通信・バチカン支局)
ローマ教皇庁外国宣教会(PIME)の国際通信社「アジアニュース」は7月20日、ミャンマーの国民民主連盟(NLD)の幹部で、元外相のニャンウィン氏(78)が新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなったと伝えた。同氏は、2月1日にクーデターを起こした国軍に同21日に拘束され、刑務所内で同ウイルスに感染し病院に搬送されていた。
ミャンマーでは現在、同ウイルスの感染が急速に拡大している。国軍によると、7月19日の感染者数が5000人、死者は281人とのことだ。火葬場の状況からして、一日の感染者と死者の総数はもっと多いと医師たちは見ている。保健当局によると、26日の新規感染者は4630人。死者は過去最多の396人に上った。クーデター後の混乱の中で、医療崩壊への危機が迫っていると伝えられる。
こうした中、国軍は7月19日、「殉教者の日」の式典を行った。この日は、ビルマ独立を指導したアウンサン将軍が、1947年に閣僚と共に暗殺された日で、記念日に制定されている。
同将軍は、NLDのアウンサンスーチー氏の父だ。同氏は現在、国軍によって拘束されている。不服従運動を中心に市民の抵抗は続いているが、ミャンマーの政治犯支援協会(AAPP)は、今年2月のクーデター以来、抗議活動に参加した919人が殺害され、5000人を超える市民が逮捕されたと発表している。
世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)国際委員会共同会長で、同国カトリック教会ヤンゴン大司教のチャールズ・ボー枢機卿は7月19日、「殉教者の日」にあたり、「ミャンマーの兄弟姉妹たち」と呼びかけるメッセージを公表した。
この中で、「今は生命を救う時、今は全ての人のための善を求めて結集する時」と強調し、同ウイルスにより「私たちの国民が、かつて知らなかったような残忍な代価を払わされている」と述べ、国民の悲痛な声を代弁した。「何千もの人が感染し、何百もの遺体が布に包まれないまま、葬儀もなく、混雑する墓地に急いで埋葬されている」「昼夜を問わず、路上にあふれる人々(感染者)が、酸素の供給を待っている」と同国の窮状を伝え、「(ミャンマー国民には)悲しみがあるだけなのか」と問いかけている。
さらに、「ミャンマーは近年、あまりにも多くの涙を目にしてきた」と指摘。「どうか、全ての紛争を中止してください。私たちが闘わなければならないのは、多くの人を死に至らしめる、先進国でさえ勝利していない、目に見えないウイルスです」と訴えた。そして、「私たちは、新型コロナウイルス感染症拡大の第1波と第2波に、結束して対処してきた」と述べ、「優しきミャンマー国民は、隣人に、助けを必要とする人々に手を差し伸べてきた。若者たちは治療センターで奉仕活動を行い、国民は、治療の最前線で(同ウイルスと)闘う医療従事者の英雄的な姿に涙を流した」と、過去の奮闘を回顧した。
実際、同国は東南アジア諸国の中で、経済的には下位中所得国であるものの、感染拡大「第2波」には効果的に対応したと評されている。特にワクチン接種を進める運動は機能し、実行につながっていたという。しかし、クーデター後、暴力的な政変に反対する医療従事者の不服従運動と、その人たちの追放、逮捕により医療体制に混乱が生じており、その中で「第3波」が起きたと伝えられる(7月21日付「エービーシー レリジョンアンドエシックス」電子版)。
ボー枢機卿は、医療体制全体が窮地に追い込まれている状況を指摘。「国家の存亡の危機にある今、政権は、医療従事者や若者たちが安全に社会関与できる保障をするように」と訴えた。「われわれが結束すれば、生命を救うことができる。分裂していては、さらに何百人も埋葬しなければならなくなる。もし慈悲の実践に失敗するならば、歴史が私たちの最も厳しい判事になるだろう」と警鐘を鳴らし、連帯を訴えている。
7月22日、パテインのジョン・フサエ・ハギイ大司教(カトリック)が、同ウイルスによる感染症で亡くなった。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)