軍隊は何のために存在するのか――今、平和の理念が求められている(バチカン記者室から)
このように、バチカン記者室に登録している588人の国際記者たちがバチカンの動静を追っていくためには、世界の宗教事情と国際政治の動向、各地の紛争状況を理解しておくことが必須になる。連日、各国語で配信されてくる大量のニュースに目を通し、分析、解釈していく過程で、注意を引く記事に出合うことがある。
去る6月21日、バチカンやイタリアのカトリック系メディアが、『レバノン――国連レバノン暫定軍のイタリア軍基地で諸宗教指導者たちが平和の祈り』と題する記事を配信した。「軍隊」「平和の祈り」という見出しに興味を引かれて読んでみた。国連レバノン暫定軍(UNIFIL)は、レバノンからのイスラエル軍の撤退を監視することなどを目的とし、1978年から同国南部に展開している国連平和維持軍だ。ただ、実戦部隊でないにもかかわらず、イスラエル軍が、政治・武装組織ヒズボラの掃討作戦を展開した際に、イスラエル軍の攻撃の標的となり、多大な犠牲者が出ている(2006年現在250人)。
これを受け、UNIFILに所属するイタリア軍のダヴィデ・スカラブリン司令官が、同国南部の諸宗教指導者たちに呼びかけて、『信仰――パンデミックと経済危機に身体と精神を病んだ人類家族のための慰めと希望』をテーマに諸宗教者による平和の祈りの集いを行ったというのだ。イタリア国防省が公表した声明文によれば、同集いにはレバノン教皇大使、ギリシャ正教の大司教、同メルキト派の大司教、イスラーム・シーア派のムフティ(イスラームの指導者)、同スンニ派のムフティ、カトリック教会マロン派の代表者が参加し、共に祈りを捧げた後、皆でオリーブの木を植樹したとのことだ。
平和は、武器によって構築されることはない。ただし、軍隊は国防だけではなく、「究極的には平和の構築を目的とするもの」という考え方があり、国益を超えた真の安定をもたらすことを最終目的とする実力組織のあり方について、各国の世論が議論を求めるような動きが出始めても良いのではないかとも考える。そのためには、宗教的精神を含めた平和についての確固とした理念が必要になる。
トランプ米政権は一昨年、宇宙軍を創設した。北大西洋条約機構(NATO)もこのほど、同様の方針を公表した。米国、ロシア、中国や欧州連合(EU)の間で宇宙開発競争が激化する状況の中で、「宇宙の平和利用」という国際法の原則を順守させるためにも、宇宙軍の存在目的や規定の制定が急務となっている。今、平和の理念を示す時を迎えている。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)